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第3話

姫宮に写真のことがバレてから、俺はほとんど毎日のように呼び出されていた。 その中にはいわゆるパシリのようなものもあったが、たいていは俺をからかったり、逆に俺の存在を無視してスマホをいじったりしているだけだった。 ーー時折キスしろと命令される以外には。 姫宮は、侑のことが好きな俺をからかって遊んでいるのだろう。 俺が逆らえないのをいいことに、姫宮の行為はだんだんエスカレートして、キスの最中に俺の身体をまさぐってくるようになった。 好きでもない相手から肌に触られるのは、気持ち悪くて仕方なかった。 なのに俺は、姫宮手つきに、不快感以外の感覚を覚えるようになってしまっていた。 そんなある日の昼休みのこと。 朝チェックするのを忘れていたスマホを見ると、姫宮から通知が来ていた。 『今度の日曜おれの家来てね〜』 姫宮はたいていスマホで場所を指定して俺を呼びつけるのだが、家に来いと言われたのは初めてだった。 『わかった』 それだけ返信してスマホをカバンにしまう。 そうして黙々と弁当を食べていると、 「そうだ奏多」 クラスメイトと話していた侑が、俺に向き直って言った。 「今度の日曜さ、俺部活ないんだけど一緒にどっか行かねぇ?」 「……悪い、日曜は用事あって」 なんてタイミングが悪いんだろう。 姫宮にはもう返事をしてしまったから、やっぱり行きません、とはいかない。 あと数分早く言ってくれれば良かったのに、と苦々しく思っていると、侑が怪訝な顔をしていた。 「もしかして…デート、とか?」 「は?ちげぇよ、そんなんじゃない」 姫宮とデートなんて、たまったもんじゃない。 「そっか……良かった。お前に彼女できたのかと思った」 あからさまにホッとした顔をする侑。 ……彼女なら侑のほうがすぐできそうなのにな。 「心配しなくてもお前のほうがすぐ彼女できるよ」 そう告げると、侑はなぜか微妙な顔をしていた。 そして日曜日。 俺は、姫宮の家に来ていた。 「奏多ちゃんよく来たね〜」 姫宮の部屋に招かれる。 両親は仕事でいないらしい。 姫宮は部屋の奥にあるベッドに腰掛けると、 「キス」 とだけ言い放った。 なんとなく予想はしていたけど、来て最初にそれかよ。 俺はもはや諦めに近い気持ちで、姫宮に口付けた。 「んっ……ふ、んぁ……」 いつものように舌を入れられ、姫宮の手が背中や腰をなぞる。 すると、いつもは触れることがない胸にまで手が侵入してきた。 「やっ……んなとこ、触んな……っぁ」 突起を撫でられ、俺は情けなくも少し感じてしまう。 「あれ、奏多ちゃん勃ってる?」 姫宮のその言葉で、俺は初めて自身が昂ぶっているのに気付いた。 ーー嘘だろ。 男に無理やりキスさせられて、乳首触られておっ勃ててんのかよ。 その事実に愕然として、頭の中がグチャグチャになって、気付いたら俺は姫宮を振り払って家から飛び出していた。 逃げたら侑に写真のことバラされるかもとか、そんなことはもう頭になかった。 翌日。 俺は重い足取りで学校へ行った。 昨日のことが頭から離れなくて、授業になんか全然集中できなかった。 そして、放課後。 帰ろうとしていた俺は、侑に呼び止められた。 大事な話があると言われて、クラスメイトがいなくなるまで待った。 「それで、話ってなに?」 2人きりになったのを確認して俺が切り出すと、侑はまっすぐな目をして言った。 「好きだ」 「え……」 思ってもみない告白に、俺の思考はストップした。 「男同士だし、気持ち悪りぃと思うかもしれないけど、俺奏多のこと好きなんだよ」 「一緒にいてすげぇ楽しいし、辛いときにいつも奏多の笑顔に救われてた」 「……男の友達からこんなこと言われても困るよな、でも、奏多の気持ち、聞きたい」 侑の言葉に、涙が込み上げてきた。 嬉しい、侑が俺と同じ気持ちでいてくれたことが、すごく嬉しい。 ーーだけど、侑の気持ちには応えられない。 俺はもう、姫宮によって穢されてしまった。 他の男に弄ばれて感じてしまう俺に、侑の気持ちに応える資格なんてない。 それが、すごく辛い。胸が、苦しい。 それでも俺は、涙に気づかれないよう、無理やり口角を上げた。 「ごめん……侑の気持ちは、とても嬉しい。でも、俺は侑の気持ちには応えられない」 「そっ……か、そうだよな」 辛そうな顔をする侑に、胸の痛みが増す。 「でもさ、俺、侑のこと友達としてすごくいいヤツだと思ってるんだ。だから、これからも友達でいてくれるか?」 声が、震える。 泣きそうなのが侑にバレていないだろうか。 「……ありがとう奏多。俺、告白して奏多に嫌われたらどうしようって思ってたんだ。こちらこそ、俺と友達でいてくれたら嬉しい」 「バカだな、俺がお前のこと嫌うわけないだろ。……じゃあ、また明日」 そう言って、俺は教室から飛び出した。 これ以上あの場にいたら、侑の顔を見ていたら、きっと涙をこらえきれないと思った。 事実、教室から出ると抑えていた涙がポロポロこぼれた。 泣きながら廊下を曲がろうとした時、反対側から来た人とぶつかった。 「ごめ……」 「奏多ちゃん、泣いてるの……?」 最悪だ。よりによって泣いている時に、1番会いたくないやつに見つかった。 俺は姫宮の顔を見たくなくて、うつむいたまま避けて通ろうとした。 「奏多ちゃん顔上げて」 そこを、姫宮につかまれる。 「俺だけに見せる顔、見せてよ」 そこで俺は気付いた。 姫宮の声が、笑っている。 俺が涙でぐしゃぐしゃの顔で姫宮を見上げると、姫宮は満面の笑みを浮かべていた。 「……やっぱ泣き顔最高」 あぁ、俺はなんてやつに捕まってしまったのだろう。 ーーそれでも俺は、もうこいつから逃れられない。

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