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第38話 不穏な噂
「よう、小池。久しぶりだなあ」
翌週の月曜日、朝の学校近くのコンビニで、まだ寝起きの頭でペットボトルとガムを購入していると、後ろから声をかけられた。
振り返ると、にやけた顔のクラスメイトが立っていた。
「ああ。多田」
いつも授業をサボっている多田が、久々に登校してきたらしい。
多田は陽向の肩に手をおいて、馴れ馴れしく尋ねてきた。
「なあなあ、おまえ、マーケティング講義のノート取ってる?」
このまえの呆れたメッセージはなかったかのように、親しげに接してくる。陽向は身を引き気味にしながら答えた。
「え? まあ、……取ってるけど?」
レジを終えて、店を出ればあとをついてくる。買い物をするつもりはなくて、陽向を見つけて声をかけてきたようだった。
「スマホで撮らせてくんね? 授業についてレポート書かないといけないだろ」
「いいけど、一ページ百円だよ」
「金とんのかよ」
ありえねえ、という顔をする相手に、じっとりと横目をくれてやる。
相変わらず調子のいい奴だった。無償でノートを写そうなどと、図々しいにもほどがある。この間の一件があったので、多田にはどうしても優しくない態度になってしまう。
けれど多田はそんな態度も全く気にする様子はなく、いつも通りの軽薄さで話してきた。
「ところでさ、桐島の友達から聞いたんだけど、おまえと彼女、お宮通りのあの店に通ってんだって?」
「ああ? うん」
学校の正門をくぐり、講義のある棟まで一緒に歩いていく。多田は今日は、講義に出席するらしかった。
「桐島がバーテンダーのこと気に入っちゃたんだって? で、それにおまえも付きあってるんだって?」
「だから?」
助けてもらったのに、お礼にも行かなかった奴にはもう関係ないだろうというニュアンスを込めて冷たく返す。
「あのバーテンダーの、上城っていう奴」
なにを言いだすのかと、隣の男に目をくれる。
「あいつ、ヤバい奴らしいよ」
胡乱な眼差しになった陽向に、多田は意味ありげな笑みを浮かべてきた。
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