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第39話

「ヤバいってなにが?」 「教えて欲しけりゃ、ノート見して」  へへ、と笑ってくる品性に欠けた笑顔は気に入らなかったが、多田の言っていることの意味が知りたかった陽向は、渋々サイドバッグをあけた。 「教えてくれたら貸すよ」  ノートは手渡さず、チラ見せするだけにする。多田は欲しいものを目のまえにして、口がかるくなったのかぺらぺらと喋りだした。 「俺のスロット仲間にビジネス情報科の奴がいるんだけどさ。そいつ、地元出身でバーテンダーのこと知ってたんだよ。高校も同じ、同級生だったって」 「同級生? そんな人がいたんだ。それで?」  ノートを取りだしつつ、先を促す。 「そう、で、このまえ、俺らに因縁つけてきた集団いただろ。ガラの悪りい四人組。おまえの股間蹴りあげた奴」 「うん」 「あの、バーテンダーの上城、元はあいつらと仲間だったんだってよ」 「え?」  思わず裏返った声がでた。 「おまえの股間蹴った奴がリーダーで、仲よかったんだってさ。それが、バーテンダーの方がリーダーのオンナを横取りして決裂したんだとよ」 「……」  そう言えば、と初めて上城と出会ったときのことを思いだす。  ふたりは知りあいのような会話をしていたはずだった。『またあんたか』とか『あんたは俺には勝てない』だとか。 「それで、お宮通りの真ん中で、ふたりで流血沙汰の喧嘩騒ぎ起こして、警察にも厄介になったんだって」 「……本当に?」 「あの辺じゃ、いわくつきの奴らしいよ。ボクシングで大学目指してたのに、それがなんだかわかんないけどダメになったらしくて。だからキレやすいのかな。学生はすぐに面倒を起こすとか、俺らのことも偏見の目で見てたし」 「まさか」  上城がそんな人だとは思えない。 「まあ、そういう噂のある奴だから、桐島にもやめた方がいいって教えといてやりなよ」  驚いている陽向の手からノートをかすめ取ると、多田は「じゃあな」と言って、教室へは入らずに帰ってしまった。結局、今日もサボるつもりらしい。

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