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第40話

「……」  残された陽向は、のろのろと教室に入り、後ろの席に陣取った。  教科書やノートなど授業の準備をしてから、多田に言われたことをもう一度考える。  あのストリート系の男たちと、上城が友達だった。元は彼らの仲間だった。  そんなこと、すぐには信じられなかった。警察を怖がって危ない商売をやっている彼らと、上城が同じ人種とは思えない。  上城はお宮通りに店を構えてはいるけれど、全うな商売を営んでいるように見える。人柄だって、愛想はないが、陽向が怪我したときは嫌だろうにきちんと手当てをしてくれた。痛みに呻いている間、背中まで擦ってくれたのだ。正義感も優しさも持ちあわせている。  そんな彼が、あの集団のリーダーと、女関係を巡って流血沙汰の争いをしたなどと。  陽向は、胸の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚に襲われた。思わずシャツの上から胸を握りしめる。  本当に、そんなことがあったのだろうか。あの暴漢の恋人を横取りしたんだろうか。  ひとり俯いて考え込んでいると、隣の席に赤いバッグがおかれた。ドン、という音に我に返る。  見あげると、桐島が「ここいい?」と手をゴメンの形にして尋ねてきていた。 「あ、うん、いいよ」  時計を見ると、授業開始五分まえだった。 「ふう。間にあってよかったわ」  桐島が大きく深呼吸しながら椅子に座る。桐島に驚かされて、授業まえの喧騒が耳に戻ってきた。  いつもは女友達と並んで席につく桐島だったが、今日はギリギリのため他に席があいていなくて、空席だった陽向の横に来たらしい。手早くバッグから教科書やペンケースを取りだしながら、こちらをちらと見てきた。 「このまえごめんね」  ちょっと申し訳なさそうな顔をする。 「え、なにが?」 「お昼、せっかく会ったのに誘わなくってさ」 「ああ……いや、いいよ」  細かな気遣いに、陽向も自然と笑顔になった。もしかしてそれを伝えるために、わざわざ隣に来てくれたのか。

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