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第41話

 先刻、多田から聞いた不穏な情報は、まだ彼女には話すのはやめておくことにした。多田のことはいまいち信用できなかったし、不確実な噂を信じたり広めたりするのは、上城に対しても誠実じゃない気がしたからだ。 「桐島」 「うん?」  隣の席に身をのりだして、小声で話しかける。 「あれから……上城さんとは、どうなったの?」  上城の怪しげな話はするつもりはないが、それ以外の動向は知りたいと思ってしまう。結局、噂話になってしまうのは避けられないのだった。 「ああ、ランチ食べて、そのあとは仕事があるからって、彼は店に戻ったみたいよ」 「へえ」  だったら、陽向の働いているコンビニには、桐島と別れたあとで来たのだろう。 「……うまくいってんの?」  こそっと尋ねると、桐島はため息まじりに苦笑した。 「なかなかねー。進展しないのよねこれが」  その横顔に、上城が彼女を狙うと宣言したことを思いだす。コンビニに直接伝えに来たぐらいだから、上城もてっきり桐島のことが気に入ったと思っていたのだが、そうじゃないのだろうか。  桐島とランチをしたあとに、陽向のところに来てそう言ったということは、これから狙うところなのかもしれなかった。 「彼、なに考えてるのか、いまいちよくわからないところあるし」 「……まあ、確かに」  自分に対する態度を思いだしても同感してしまう。 「お店にもできるだけ行くようにしてるんだけど、あそこ、やっぱりたどり着くまでがちょっと怖いし。かといって毎回アキラさんに頼むのも悪いしさ。アキラさんは全然気にしないよって言ってくれるんだけど」 「女の子ひとりだとね」  桐島が、うんうんと頷く。陽向はここのところ、桐島にザイオンに行こうと誘われても断っていたので、悪いなと思いつつ同意した。

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