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第42話
「上城さんのお店、中に入ればすごく雰囲気いいじゃない。上城さんも腕のいいバーテンダーだし。なのに、どうしてあんな古くて暗いお宮通りなんかで店だしてるのかしらね。駅まえの繁華街に移れば、ザイオンだったらもっと人が入って繁盛する気がするんだけど」
「そう簡単には移転はできないんじゃない」
「そうねえ。でも、全くできないわけでもないでしょ。移ろうと思ったら、もっと条件のいい場所はいくらでもあるわよ。駅まえなら街並みも整理されて綺麗になってるし。なにか、理由でもあるのかなあ。あそこにこだわるのに」
聞きながら、さっきの多田の話がまた頭に浮かぶ。上城が、あの集団と仲間だったという噂が。
上城があそこに店をだしているのには、特別なわけでもあるのだろうか。もしかして、店の奥で裏家業でも営んでいるのか。物騒な想像を、まさかと心の中で否定する。
「本人に訊いてみれば? どうしてお宮通りに店を持つことにしたんですか、って」
「そうね。今度、ふたりきりになったときにでも訊いてみようかな」
ふたりきり、という言葉に胸がちくりと痛んだ。
けれど、それを顔にはださないように目をそらしつつ、陽向はまえを向いて講義が始まるのを待つことにした。
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