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第63話
ティッシュを数枚抜きだして、陽向にも手渡してくる。
受け取って涙を拭い、洟もかんだ。みっともなく音をたててしまうと、上城が小さく笑う。そのせいで緊張がほどけて、場の空気がちょっと和んだ。
陽向が落ち着くのを待って、上城は自分も床により添うように横になった。
肘をついて、そこに自分の頭をのせる。並んでラグの上で寝転ぶ格好になると、陽向はほっと一息ついた。
「上城さんは……」
陽向が上城の方を向くと、相手は「うん?」というように、小さく唸る。
近くにある端正な面差しは、いつもよりずっと優しげだった。
だから、現実じゃないようでぼうっとなってしまった。
「……俺なんかの、一体どこがよかったんですか……」
掠れた声で尋ねてみる。
それは一番不思議に感じた点だった。自分のどこが気に入って誘いをかけてきたのか。こんな平凡で、面白味もないような男の。
「かわええところ」
迷いなく答えてくる。
「……まさか」
大人の男の人から、大人になった自分が言われていい言葉なのだろうか。疑うように口元をあげると、上城は笑みは保ったまま、けれど真面目に教えてきた。
「それから、勇気のあるところ」
「ええ?」
俺がですか? と思わず声をあげる。上城はそれにも真剣に頷いてきた。
「初めて会ったとき、おまえ、畠山 らに怯まずに挑んでいっただろう」
「え?」
「おまえの股間、蹴りあげたストリート系の奴らのこと。あいつらのリーダー、畠山っていうんだ」
「……ああ」
四人の中で一番年長で、たちの悪そうな顔つきだった男だ。彼がリーダーだったらしい。
名前を知ってるということは、知りあいだったのか。多田の言っていたことが脳裏をよぎる。けれど、今は黙って話の続きを聞いた。
「ここで働いてるとああいった場面には時々出くわすんだけど、大抵、女の子が絡まれると、一緒にいる男はビビッてなにもできずに棒立ちになってるか、自分だけ逃げようとするかのどちらかなんだよ」
そう言われて、陽向はあのとき自分はどうしようとしたか思いだそうとした。桐島が奴らに腕を掴まれて、それで確か無我夢中で、桐島だけは怪我させちゃいけないと思って……。
「おまえは畠山から彼女を守ろうと、必死になってあいつに掴みかかっていっただろ」
そうだっただろうか。全然覚えていない。
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