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第64話

「チビで弱そうな感じだったのに、ずいぶん根性あるなって思ってさ」  口端をかるく持ちあげて、笑みの形にした。 「助けたあとも、だから、介抱してやろうって気になったんだよ」 「そうだったんですか」  うん、と頷くと、陽向の顔をじっと眺めてくる。 「手当てしたのは、興味半分、慈善の気持ち半分」  指をのばして、陽向の顎を親指で擦ってきた。 「けど、世話しようとしたら、急にエロっぽい声だして可愛い顔になるもんだから」 「……え?」 「全部興味になった」  男らしい顔に、優しげな笑みが浮かぶ。想いを明らかにされて、陽向の胸はきゅっと押されたように痛んだ。  けれどこれは、今までの上城のことを思って悩みながら痛めていたものとは大違いで、満たされすぎて幸せに圧迫された痛みだった。 「次の日、礼を言いにきたのには驚いたな。もうお宮通りには来ないだろうと思ってたから。それから通うようになってくれたのは嬉しかったけど」  そこで、親指にちょっと力を込める。陽向の唇の下をグリグリと押すようにしてきた。 「いつも彼女と一緒で、しかもカウンターでいちゃいちゃ仲よく話してるし、彼女のことが好きなのかって訊いたら、好きだって答えやがるし」 「……」 「なのに、こっちのこと見るときは意味深に潤んだ目をしてきて。誘うように視線をあわせたら恥ずかしそうにそらすしさ。だからこいつどういうつもりなんだって、実は腹の中じゃ結構イラついてた」  思いだしたらまたムカついてきたというように、頬に手を回して横に摘んでくる。陽向の口はカエルのように広がった。 「まじですか」  だからあんなに機嫌が悪かったのか。というかやっぱり嫌われてたんじゃないのか、その状況は。 「すいあせん、嫌われてるのかと思ってました」 「誘いかけてたんだよ。彼女にはバレないように」 「ええ……」  全然そんな風には見えなかった。自分が鈍いせいで、ひとつも伝わって来ていなかった。男同士の微妙な誘いのニュアンスなんて、経験がないから全く思いも及ばなかった。 「じゃあ、彼女のこと狙ってるって言ったのは……」 「なんとかして挑発してやろうと、頭使ったんだよ。けどそのうち、店に来なくなるしさ。そしたら余計にイラついて、仕事でミスしてアキラにはなにやってんですかとか言われるし」

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