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第65話
アキラに対する憤りを表すかのように、陽向の顔をさらに横に引っ張る。痛くはないけど、八つ当たりされている気がした。
「それはすいあせんでした」
空気がもれる唇から、アキラの分も謝罪する。上城は「うん」と言って指を離した。
「数日まえ、彼女が映画に行かないかって誘ってきたから、それを口実に無理矢理呼びだしたんだ」
今度は唇の端をゆるゆると擦ってきた。
「会いたかったからさ」
指先に込められた優しさのせいか、それとも言われた台詞のせいか、口端がぐっとさがってしまう。
「そしたらあんな陳腐な映画で感動するし、抱きよせたら可愛くなるし、あの場で押し倒したくなって、我慢するのが大変だった」
上城はそこで言葉をとめた。顔を伏せてじっと動かずにいたが、しばらくして「やばい」と一言もらした。
「喋ってたらそのうちに治まるかと思ってたけど、やっぱ無理だ」
むくりと身体を起こして、立ちあがる。
「1ラウンド」
「へ?」
「1ラウンドで、戻る」
上城は言いおいて、そのままリビングを出ていってしまった。
ばたんとドアをしめて、その先にあるらしい廊下を足音を立てて去っていく。
「……」
残された陽向は、床に転がったまま、上城の出ていったドアを天地逆の状態で見続けた。
色々と喋って、心のうちを明らかにしてくれたのは気をそらすためだったのか。
上城に言われたことが、本人がいなくなってからじわじわと胸に滲みてくる。そんなに思ってくれているとは知らなかった。悪いことをしてしまった。
疲れ気味の身体を起こして、ラグの上に正座する。顔にはまだ熱があって、頭はぼうっとしていた。
二度も、触られてしまった。なにがなんだかわからないうちに。けれど全然嫌じゃなかった。
そうして自分は二回もお世話になってしまったのに、こっちからはなにも返していない。
正座の足を、居心地悪くもぞもぞさせる。膝に両手を揃えて、もう一度しめられたドアを振り返った。
やっぱり、してもらったならしなくちゃいけなかったよな。同じ男なんだもんな、と反省してみる。こういう経験は初めてだからよくわからないけれど、自分だけってのはよくないんじゃないかって、それぐらいは推察できる。
だったらどうしたらよかったのだろう。やっぱ、同じように手とか? それとも口……とかか?
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