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第66話

 こっちのモノは二度もさらしたのに、相手に関してはまだ未知のままだということが、顔を赤面させた。  そうやってひとりで悩んでいるうちに、上城が戻ってきた。ドアをうしろ手にしめて部屋に入ってきた姿は、なんだか少し居心地悪そうで、らしくなく目元には朱色がほんのわずかだけれど走っている。ちょっと不機嫌そうだったから、やはり自己処理させてしまったことを怒っているのかと思った。 「……あの」  陽向の横に腰を下ろし、胡坐をかいた相手におずおずと話しかける。上城は、なに? というような目をしてきた。 「俺もしましょっか。……よかったら」  それに男は、整った眉をよせた。 「いまごろ言うなよ」 「あ……そ、そうですよね。すいません」  恐縮する陽向に、仕方ない奴と言うようにくすりと笑う。 「今度」 「え?」 「また今度な」  次があるのかと、考えていなかった陽向は目を見ひらいた。その顔も面白かったのか、上城はさらに口元を和らげる。優しげな微笑みだったので、怒ってないとわかって陽向もほっとした。  膝の上に揃えていた拳に、上城は自分の手を重ねてきた。 「今夜は泊まってけよ。明日の朝、家まで送ってってやるからさ」  包み込まれるまれるようにして握られる。また心臓が勝手に踊りだしたが、けれど冷静さが残っていた頭は、翌日の講義のことを思いだした。 「……すいません。明日は、朝から学校があるんです。遅刻できない講義なので、今日は帰らないと」 「そうか」  答えを予想していたらしい上城は、無理強いはしなかった。 「だったら、そろそろ戻らないといけないな。遅くなるとこの辺も物騒だから」  時計を見れば、午前一時をすぎていた。確かに真夜中にひとりで歩いて帰るのはちょっと怖い。このまえのことがあるので、少し慎重になる。 「送ってくよ。家はどのあたり?」  上城が腰をあげたので、陽向も立ちあがった。 「あ、えっと、駅まえから歩いて十五分くらいのところです」  言いながら、送ってもらうなんてなんだか女の子みたいだ、と恥ずかしくなった。男のくせにひとりで夜道も歩けないとか。  けれど、またあのときの集団がいたらと思うと、情けないが自分だけで対処できる自信はない。上城がいてくれたら心強いのも確かだった。

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