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第67話 不安な影
ふたり揃って、玄関を出て階段を下りる。店を抜けて通りに出ると、上城は陽向の手首を握ってきた。
あれ、と思ったが、相手はなにも言わずにまえを歩いていこうとする。
お宮通りは宴もたけなわという雰囲気で、狭い道にはそれなりに人がいた。
皆、酔っ払っていて足元の覚束ない人たちばかりだった。誰もこちらを気にする様子はなかったが、手を引かれて歩くなんて、本当に女の子扱いされているような気がしてしまい頬が熱くなる。上城は平気な顔をして歩いていたけれど。
暖かい明かりが、周囲を照らしていた。店からもれる光に、小さな街灯のともしび。ネオンサインという言葉が似つかわしい照明の入った、一昔まえのデザインの看板。聞こえてくるのは知らない演歌で、暖かい匂いはおでんや焼き鳥のようだった。
不思議な空間を、ふたりで歩いている気がした。どこか昭和の時代にタイムスリップしてしまったような。
「マスター、今日は休み?」
すれ違う人のよさそうな親父が尋ねてくる。
「ええ、休みですよ」
「そっか。なら明日行くわ」
手をあげて、赤ら顔をくしゃくしゃにして笑う。上城もいつもの営業用スマイルを返した。けれど、やっぱり陽向の手は離さなかった。
数百メートルの通りは、楽しみながら歩いていけばあっという間だった。お宮通りを抜けてしまうと現実が戻ってきたように、普通の、ありきたりの道路が広がっている。
通りの外には、青白い街灯と、時折走り抜ける車がある程度だった。
昼間しかあいていない店は、今はシャッターを下ろしてひっそりとしている。上城は通りを出るといったん手を離し、今度は指を重ねあわせるように握ってきた。いわゆる、恋人つなぎというやつだった。
暖かい手のひらや、くすぐるように絡めてくる指が皮膚だけでなく心も刺激してくる。気恥ずかしさよりも、じんわりとした嬉しさが込みあげてきた。
上城は無言のまま、線路沿いを歩いていく。その先には、駅まえに通じる踏み切りがあった。
終電は行ってしまっているので、遮断機が降りてくることはない。線路をふたり手をつないだまま渡った。
上城はなにも言ってこない。どうして黙ったままなのかと思うけれど、自分だって話しかけるいい言葉は見つからなかった。多分、相手もそうなんだろう。
この夜の、静かな時間を言葉ではなくつながった手の先だけで、想いを行き来させる。
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