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散り逝くその日まで

卯月も半ばを過ぎ、至る所の桜がちょうど満開を迎えたある日の事。 「…総司、いるか?」 今日は予定も無く自室で以前近藤に借りた本をぱらぱらと読んでいると、襖越しにそう声がした。土方を中に招き入れ読み掛けの本を片付けながら答える。 「はい、何ですか土方さん?」 「…お前が本なんて珍しいな」 「近藤さんが貸してくれたんですよ。面白いから読んでみろって言って」 「…近藤さんがそう感じる本なんざ、お前には内容が難しくて分かんねぇんじゃねぇか?」 わざと人を小馬鹿にしたように、クツクツと笑いながら土方が言う。 反抗しようと口を開きかけるも、事実だから何も言えない。『面白いから』と、半ば強引に渡されたから読んでみてはいるものの、内容の半分くらいはよく分からない。 こういう本を読んで意味がきちんと理解出来るようになれば、自分も少しは土方に近付けるのだろうか。そんな事を思いながら土方を見つめる。 「……そのうち分かるようになってみせますよ。それより、何か用があったんじゃないんですか?」 「今から巡察に出る。お前も俺に同行しろ」 新選組の副長である土方自ら赴くとは、何か緊急性のある用事なのだろうか。それとも、恋仲としての誘いだろうか。どちらにせよ、土方と一緒にいられるのだ。嬉しいに越した事はない。 「へぇ。土方さん直々に『同行しろ』だなんて…珍しい事言いますね。何かあったんですか?」 逸る気持ちを悟られたくなくて、平素で答える。一方の土方は視線を彷徨わせ、黙りこくっていた。 「…土方さん?」 こういう態度を取るという事は恐らく、緊急性のある事ではないのだろう。そんな彼が愛おしくて次第に頬が緩んでくる。 「…い、今は桜が綺麗だからな…。そ…その、俺がお前と桜を見たい。と言ったら、お前は笑うか……?」 予想通りの答えに緩く首を振ってそっと口付ける。 「いいえ。笑うわけないじゃないですか」 浅葱色の隊服を身に纏い土方に手を差し伸べる。命続く限り土方さん(貴方)の側に―― 「行きましょうか」 「…ああ」

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