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45.回らぬ万華鏡

「ショーには一切出るな。店長の業務に徹しろ」  それは、業務に関する命令だ。東郷の口調が厳しい。二、三度まばたきして、アキが問いかける。 「うちはキャストが不定期なんですよ。キャストが足りないときは、どうするんですか?」 「本店(うち)から派遣する」 「それでもキャストの都合がつかないかもしれませんよ」  手首を握る両手に力をこめ、東郷の口調はさらに強さを増す。 「俺が何とかする。だから、アキは出るな。もしもカズハに誘われてもだ」  東郷はアキがカズハと共演するのが嫌なのだろうか。そう考え、アキは尋ねてみた。 「あ、あの…一人で出演するのもダメですか?」 「ああ、ダメだ。ほかの男にアキのこんな可愛い姿も体も、もう見せたくない。オプションなど言語道断だ。アキがほかの男にキスをしたり、手コキをするのかと思うと、はらわたが煮えくり返る」  東郷はどうあっても、アキをショーに出させないつもりだ。たとえ仕事で恋愛感情は無いにしろ、ほかの男との接触は許せない。そんな可愛いとも思える嫉妬に、アキは吹き出してしまった。 「勝さん、ヤキモチ妬きなんですね」 「そうだ。だから人前に出られないよう、お前にキスマークをつけた」  アキの白い肌を、東郷の浅黒い指がたどる。ちょうど、星と星を繋いで星座を作るように、キスマークの赤い跡を繋ぐ。 「キスマークなら、いつか消えますよ」  胸元をたどる手を、アキが握った。 「そしたら俺がまた、つけ直す」  自分の手に重なったアキの手の甲に、東郷はキスをした。 「あーっ、勝さん、またっ」  アキの手の甲にはキスマークが。白い肌に赤い跡は、余計に目立つ。 「明日仕事ですよ。もし消えなかったら、絆創膏でも貼るしかないじゃないですか」  東郷はもう片方の手にもキスマークをつけた。 「絆創膏を貼ったところで、ハナは勘がいいからすぐに察するぞ。“昨日はお楽しみだったわね”、とかな」 「えっ!」  花森にからかわれる様子を想像すると、アキの顔が赤くなった。そんなアキの鼻が、東郷につままれる。 「いっ!」 「今さら恥ずかしがってどうする。今日、俺が二号店に来たら電話を入れるように、ハナに言ったんだろ。それに防犯カメラもあるから、全部お見通しだぞ」  そうだった。花森もカズハも、もしかしたら須美も、今こうして二人が愛し合っていることを知っているかもしれない。 「どうしよう~…冷やかされるじゃないですか~」  東郷や本店の名を出すたびに、花森が意味深な笑みを浮かべるかもしれない。それは決して居心地が悪いというわけではなく、幸せな証拠なのだが、アキはそんなことに慣れてはいない。 「何か言われたら、思い切りノロケてやればいい」  アキの隣で肘枕をした東郷が、アキの胸元に手を這わせる。くすぐったさに身をよじりながら、アキは東郷に問いかけた。 「…もしかして、勝さんも須美さんにノロケたりするんですか?」 「当たり前だ。アキが凄く可愛かったと報告しておく。ついでにカズハにもな」 「そんな報告、しないでくださいっ」  アキが東郷の頬をつねり、ふくれっ面になった。そんなアキが可愛くて、東郷はまた胸元にキスマークを増やす。 「周りに知らせておかないと、アキがまた狙われたら困るからな」 「勝さん」  アキも肘枕をし、東郷と向かい合った。 「わかりました。僕はもう、ショーには出ません。これからは、あなたの前でしかショーを見せませんから」  東郷の目をじっと見つめるその表情は、仕事のときの蠱惑的な笑み――小悪魔そのものだった。 「そのショーは、今からでも見られるのか?」 「もう閉店しないと、明日の仕事に差し支えますよ」  “また今度ね”とアキは東郷の額に唇を押し当て、ゆっくりと音を立てたキスをした。だがそれは、東郷を誘っているとしか思えない。唇が離れたときの気だるそうな吐息は、愛撫を受けた瞬間のようで。まさに小悪魔アキの技だ。 「ダメだ。お前を三回はイカせると断言したからな」  東郷の手が、少し硬さが戻りつつあるアキのペニスに触れた。 「あっ…」  いきなり何の前触れもなくいじられ、アキのペニスは初々しいまでに大きく反応する。 「ほら、こんなにして。閉店だって言うなら、今日はもうやめるか?」  アキも負けずに手を伸ばす。 「勝さんだって、やめたくないくせに」  ブランケットの中、手探りで触れる東郷のペニス。オプションで、何度愛撫しただろう。それはすでに硬く、アキに触れられるのを待ちわびていた。  だが、アキはすぐに手を離す。 「なんだ、ハンドのオプションは無しか」  アキの熱い手のひらが、東郷の頬を包む。 「後でゆっくり。今は…リップのオプションです」  アキが唇を舐める。その舌を少し出したまま、東郷の唇に重ねる。東郷の唇を舐め、中に入り、小悪魔はイタズラを始める。体中に赤い花をまとった小悪魔は、お返しにと東郷の喉仏近くに同じ花を咲かせた。  月明かりとルームランプに照らされた、回ることのない万華鏡。体中にベーゼを散らし、シーツの上に愛を散りばめ、肌を合わせるごとに違う表情を見せる万華鏡は、今宵どんな夢を見せるのか。  ―完―

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