1 / 46

1.X-ROOM

 ライトが灯り、音楽が流れる。何枚もの鏡に覆われた円形の部屋が、金色のポールを中心にゆっくりと回り始めた。部屋といっても、枕と電話しか無い。部屋の中央では、真っ白なワイシャツだけを身にまとった青年が、横向きに寝そべっている。ウェーブがかかったダークブラウンのマッシュの髪型は、青年を幼く見せる。床も枕も電話もシャツも、青年の肌さえも白い。ポールの金と鏡の銀が、白をより強く引き立てる。  青年は片膝を曲げた。正面の鏡には裾からほんの少し出た尻が映っている。別の鏡には、ワイシャツのボタンを一つ二つ外す姿が。それぞれの鏡は万華鏡となって、回転するたびに艶めかしくなっていく青年の姿を映し出す。  体を起こし、ボタンをまた一つ外す。肩からワイシャツを滑らせると、細めだがほどよく筋肉がついた肩と胸元があらわになる。指を舐め、すでにぷっくりと立っている薄紅色の蕾に、その指を這わせた。 「あ…ん…」  ポールにしがみつき、しなだれかかる。それでも蕾を触る手は止まらず、次第に動きは激しくなって、見ている方が“痛い”と感じてしまうほど、強く引っ張る。  青年はワイシャツがはだけた姿で立ち上がった。金色のポールを愛おしそうに撫で、腰を上下に擦りつける。ワイシャツの、もう片方を脱いだ。ヘソの下でワイシャツはくしゃくしゃの塊になっているが、その下の陰部はどうなっているか。見ている者は想像をかき立てられる。  上下に動いていた腰は、左右にも動く。BGMの緩いビートは、まるで青年の呼吸だ。吐く息に合わせ、青年は声を上げる。 「はっ…、あ…、あん」  ポールに舌を這わせる。それを愛しい人自身に見立てているのか。両手を滑らせ、舌で丁寧に撫でる。腰は依然、上下左右にといやらしく揺れる。目を閉じ恍惚の表情で、青年は腰にたまったシャツの後ろをたくし上げた。尻を突き出し、菊門をあらわにする。万華鏡は、赤く色づいた門をいくつも映し出す。どんな宝石よりも、観客にとってはその光景が嬉しい宝物だ。  ポールは天井から床まで突き抜けている。愛しい人の男性自身ではない。そのもどかしさから、青年は切なそうに眉を寄せると床に伏せ、菊門に指を入れた。 「あ…ん…」  前後する指に合わせて腰を引く。その奥では、たわわに実った二つの袋が揺れる。何度も指を出し入れするのは、愛しい人とのセックスを想像するためか。  残ったボタンを外すと、スルリとワイシャツが落ちた。勃ち上がったサオがあらわになり、青年は全裸になった。  今度は床に座る。足を開いて膝を立て、鏡の方を向いて自慰をする。 「はあ…、あっ…」  鈴口からは透明な蜜があふれ、少し骨張った指を濡らす。ここで、BGMの音量が落ちた。床の回転も止まる。鏡の横に開けられた、改札機の挿入口に似た隙間から、カードが白い床に落ちる。オプションタイムの始まりだ。  床に落ちたカードには、“会話”“リップ”“ハンド”と書かれていて、受付時に申し込むとオプションタイムにカードを挿入し、キャストがそのサービスをしてくれる。  青年は床に置かれた電話機に手を伸ばす。受話器を耳に当てると、唇を舐めた。 「ねえ、あなたも僕を見てオナニーしてる?」  荒い息でかすれた声の男が答える。  《ああ…。アキ、今日も綺麗だよ》  青年――アキはその端正な顔立ちに不似合いな、意地悪な笑みを鏡に向けた。 「ほら、ここも見たいんじゃない?」  アキは袋を持ち上げ、その奥の門を広げて見せた。  《うっ…、アキ…俺のも見て…》  鏡の横にあるボタンの、上向きの方を押す。鏡は電動で上にあがっていき、下半分がオープンになったところで止まった。鏡の向こうは、人が一人入るのがやっとという小さな個室。椅子に腰掛け、ズボンと下着を足首までずり下ろした姿が見える。だが、見えるのは下半身だけだ。 「こんなに大きくして、いやらしい」  アキのその言葉に、男は自身を擦る速さを上げた。 「恥ずかしいね、その格好」  アキは床に頬杖をつき、男の自慰をじっと見る。後ろの鏡には、突き出した尻の真ん中にある赤い門が丸見えだ。 「そんなにヌルヌルになったら、僕の中にスッポリはいっちゃうかも…」  アキは言葉攻めで恥辱を与えるより、性行為を嫌でも想像する言葉を投げかけて、相手を蛇の生殺しにするのが得意だ。その前立腺に直に響く焦らし行為が、アキを犯してみたい衝動にかられて、男は燃え上がる。  男の自慰を眺めていたアキは、体を反対に向けて、今度は菊門を見せる。 「ねえ…、ここに入ってるの想像して、僕もオナニーしていい?」  《くっ…あ…》  反対側の鏡に向かって、アキはにっこり微笑む。オプションを申し込んでいない客にも、アキはサービスを欠かさない。  しばらく男とのやり取りが続いた後、アキが鏡を閉めた。別の鏡を開く。床にかがみ、アキの手が下に伸びる。部屋の向こうは、下半身丸出しの男。ガラスの向こうで見ているだけの存在が今、確かな物となって男に触れている。  硬く張った袋を撫で上げ、血管が浮き出たサオを滑り、くびれを強く握り、鈴口から溢れる先走りを、亀頭に塗りつける。  少し斜めに反って長めの茎に、シミに似たホクロもある。いつもハンドサービスのオプションを頼む常連だ。雄の本能で熱く充血しているが、男はまるでアキのペットだ。されるがままに、大人しく椅子で荒い息を吐いている。 「ねえ、気持ちよかったら声を出してもいいんだよ」  男は唇を噛み、必死に声を殺す。だが、息が荒いのはアキにも伝わる。 「イカせてみたい…僕の手じゃなくて…口で、とか」  そんな誘惑に、男は先端からしずくを漏らす。そのしずくをすくい、サオに塗りこめる。片手で強く扱きながら、もう片方の手は優しく袋を撫でる。器用な動きに、男は欲望を吐き出し、アキの手に白い跡を散らす。  鏡を閉めると、アキはまた別の鏡を開いた。今度は下向きのボタンを押し、鏡を下ろした。上半分がオープンになる。そこから顔を出した男に近づく。年格好は三十代で、あまり清潔感はない。それでもアキはうっとりとした表情を浮かべ、キスをする。重ねた唇の隙間から舌が入ってきた。アキの舌が、それに絡まる。入ってきた舌を美味しそうに味わい、恍惚の表情を浮かべながら、アキは尻を艶かしく動かし自慰をする。そうして、ほかの個室から見ている客にも退屈させない。 「んっ…はっ…はあ…」  角度を変えるたびに、熱い息と声が漏れる。最後に客の頬を両手で優しく包み、ついばむようなキスを繰り返した。 「感じさせてくれたオマケだよ」  鼻の頭に、情がこもったキス。アキのそんな気配りが、人気の秘訣だ。  全てのオプションサービスが終わり、鏡に覆われた万華鏡の舞台は、ゆっくり回転を始める。興奮が頂点に達したアキは、あお向けで自慰をする。濡れて赤い先端、血管が浮き出た茎、アキの淫らな表情、硬く張った袋。部屋が回転する度に、アキの全てが丸見えだ。 「ああっ、あっ、イッちゃう…!」  大きく背を反らせ、アキは絶頂を迎えた。胸まで飛んだ若い果汁を指ですくい、胸の蕾に塗りつける。荒い息を吐きながらそこをいじり続ける姿は、仕事を忘れて自慰に没頭している一人の青年だった。  客はそんなアキに溺れる。アキの乱れる姿が好きだ。アキの淫らな言葉、いやらしい手つき、狂おしいキス。それらにみんな、酔いしれる。“小悪魔アキ”に。 「アキ…今日もよかった…」  先ほどオプションでハンドサービスを受けた男は、備えつけのティッシュで始末をすると服を直し、部屋を出た。

ともだちにシェアしよう!