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第1話 記念樹
「冬馬、そろそろ誕生日ね」
「欲しいプレゼント、買ってやるからな」
僕はそんなものは要らない。
僕は憂鬱な誕生日、十五歳になる十二月十日を三日前に控えていた。
僕は来年の四月に東京の寮付きの高校に進学することになっている。
ウチの一族はみんな弁護士になるし、僕もならなきゃいけないらしい。
両親が経営している事務所を継がなきゃならないからだ。
たったそれだけの理由で、僕は東京の高校に進学することになっていた。
「僕は君と離れるのが嫌だよ、椿」
僕は庭の椿の木に向かって話し掛けた。
この椿の木は僕が生まれた日に植えられた記念樹、僕の兄弟で友達だった。
共働きの両親が家にいないときは、僕は椿にいつも話しかけていた。
勿論植物の椿は言葉を話さない。
でも話さずにはいられないくらい、僕には話し相手が居なかった。
「椿が人間だったらさ、僕が東京に行くのを止めてくれたかな」
絶対に答えられないと分かっていても僕は言葉にして、椿が見える窓を閉めた。
鍵もカーテンも閉めないで、僕はその日の夜は就寝した。
ただ、なくとなく閉めたくなかった。
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