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第1話
「なんだ、今日も狛の方かよ」
残念だと言う声で青年の膝を跨いでいる少年は絶世の美少女だった。
吸血鬼と言うだけあって変身能力は他の妖異と違って格段に上である。
「で、虎のヤツはどうしたよ?」
少年は青年のディテールに小さな指をかけ、前閉じの釦を器用に外してからファスナーを下へと下げた。
見た目は幼いが、歳は彼よりも数十倍以上上である。
「え?西海岸に行くって言ってけど?連華、聞いてないの?」
「ハア?聞いてないが?」
少年は眉を潜めて、今度はシャツの釦を一つ一つ外し始める。
「美味しいワインがあるとかでいそいそと出掛けていったんだけど?本当に聞いてない?」
「知らねぇよ。三日くらい前に旨いチーズを手に入れたとは言ってたが、ソレとコレとは話が別だろう?」
シャツの前をはだけさせて青年の首に腕を廻す少年は、人間の食のことはまったく理解していないようである。苦い顔をする青年は少年の細い腰に両腕を廻して、彼を安定させた。
「だったら、今日は連華の好きなようにしてイイよ?」
「当たり前だ。こう毎日同じヤツの血を呑むと胸焼けがするって言ってんのに、アイツはどうしてソレを解ってくれねぇんだろうな?」
少年は文句を言いつつも、青年の肩に舌をゆっくりと這わしてカプリと犬歯でかぶりつく。
甘噛みにも似たその行為でどうやって血を啜っているのか解らないが、青年の体内から血が抜けているのは確かだった。んっとくぐもった声を上げて身を捩らす青年の肌が蒼白く染まっていくから。
コクコクと喉を鳴らす音が普通だったら聞こえてくるハズなのに、ソレがない。更に、埋めていた顔を直ぐに持ち上げようとする少年を青年は不思議がった。
「………アレ?………もうイイの?」
数秒吸っただけで離れていく小さな唇に青年が聞くと、ゆっくりとソレが近付いてきた。口を開けろと言う目は紅く、体内に流れている血と同じ色をしている。
「………ちょ、連華?どうしたのさ?」
服をはだけさせるのは血痕がつかないようにするためだが、こう言う性的なことは一度も求められたことがなかった。もう片方の青年にはどうなのか知らないが、この青年の方には初めてだった。
「オレの好きにしてイイんだろう?つべこべ言わずに口を開けろって」
青年は少し困った顔をして、だが、少年の言い分はもっともで言うことを聞くしかない。おそるおそる口を開け、少年の言われるがままに彼を引き寄せた。
途端、薄く開いた唇にねっとるとした舌が割り込んできて、錆びた鉄の味がする。この味は苦手なようで青年は少年を引き剥がそうと腰に廻していた腕を下に引いた。
だが、少年は青年にしがみついて離れようとはしなかった。ごくりと飲み込む唾液が苦痛で堪らない。接吻は初めてではないようで、舌を使って少年の舌を追い出そうとするが、上顎と下顎を交互に舐められたら、ソレ以上抵抗も出来ず飲み込んでしまう。
「………れん、……か、………ヤッ………」
今にも泣きそうな声で少年をどうにか制止させようともがく。が、少年はソレを絶対に許さなかった。
「オイ、逃げんな。ちゃんとオレの目を見てろって」
強く引き寄せられる体勢で前屈みになる青年はぎゅっと目を瞑った。少年に反発しているワケではない。身体の奥底から沸々と沸き上がってくる血潮に目が眩んだのだ。
「………ヤ、なに、………したの?………からだがもえるように……あつい………」
好きにしてイイよとは言ったが、身体が沸騰する様なこの熱には耐えられなかった様で、青年はポロポロと泣き出した。
「狛、いいからオレを見ろって」
泣いている青年の頬に手を添えて、流れ落ちる涙を掬いながら、強引に少年は青年の目蓋を開かせた。折角の長い睫毛が涙でぐしゃぐしゃでみっともない。
「大丈夫だ、最初のうちだけだから。ほら、オレの目を見て大きく息をしろ」
動揺を隠せれない青年は少年の目を見て、ゆっくりと息を吸う。さっきよりかは幾分楽になったのか、青年はホッと息を付いた。
少年は青年の頭を撫でて、今、青年の身体に起こっていることを説明し出した。
「身体が熱いのはお前の血が猛スピードで作られてるからだ。一定値になればおさまるからそう泣くな」
解ったと頷く青年に、少年はもう一度唇をくっつけて舌を差し入れた。慰めるような舌使いであの錆びた鉄の味もしない。青年は、無意識に少年の身体を自分の方に引き寄せていた。
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