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幸せな日々
東北地方の丘の上に小さな家が建っていた。
その家から、若い青年が出てくる。
三年前までは短かった髪がいつの間にか長くなった。時々切ってはいるが、それでも肩より少し長い。
女性のように細い体で、顔も童顔で綺麗な顔をしているが、碧人 は立派な男性だ。
ただ、他の男性と違うところは、お腹が大きくなっていることだ。
碧人はお腹を庇いながら、庭で育てている野菜や花に水をやった。
「碧人!」
丘の下の方で、声が聞こえる。
碧人にとって、大事な大事な人である。
「要 、おかえりなさい」
要の端正な顔はなにやら焦った表情をしている。そして、碧人の傍に来るや否や、ぎゅっと抱き締めた。
「ただいま」
「もうっ苦しいってば!赤ちゃんも潰れちゃう」
「すまない…。でも、碧人もうすぐ臨月なのにそんなに動いてていいのか?」
「赤ちゃんのためにも元気に動いて、ちょっとでも食べられるようにするよ」
碧人はにっこりと笑った。
三年前まで、まさか自分がこんなにも心穏やかな日々を過ごせるようになるとは夢にも思わなかった。
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