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第1話 お勤め

「ヨビ様。お勤めでございます」  午後七時、夕餉(ゆうげ)を食べ終わったばかりの僕に、木枠で四角く切り取られた景色の向こうから、白い狩衣(かりぎぬ)(はかま)家人(けにん)が声をかけてくる。  時機(たいみんぐ)が悪いな。僕は幼い頃、食事をしてすぐのお勤めで、喉奥を突かれ吐いてしまった事がある。  先代に酷く叱られ、丸一日食事抜きだった。  それ以来、どんなに苦しくても、僕はお勤めが終わってお作法の礼をしてから、人知れず吐くようにしている。 「分かりました。参ります」  朱塗りのお膳に箸を揃えて置き、正座からすっと立って木枠の隅の狭い出口に向かった。  見慣れた、黒くて大きな南京錠がガチャリと外され、出口が開く。  僕は家人と同じ白い袴の腰を屈め、出口を抜けてお勤めの間に向かって歩き出した。    お勤めの前には、前室で口をすすぎ手を洗って、肩にかかる長い黒髪に(くし)を通す。  身体は、いつお勤めがあっても良いように、朝昼晩と三回清めていたから、清潔だった。  今日のお勤めは、これが初めて。多ければ日に四~五回のお勤めがあったから、今日は楽な方だ。  幾ら神聖な儀式と言っても、あまり多いと身体が悲鳴を上げる。    身支度を整えている間、お勤めの間からひっきりなしに咳払いが聞こえていた。  お勤めが初めての参拝者様だろうか。きっと、緊張しているんだろう。僕が牽引(りーど)しなくては。  そんな風に思って、季節に合わせて変えられる、見事な枝振りの桜が描かれた襖に膝を向け、僕は三つ指をついて声をかけた。 「参拝者様。お待たせ致しました。皇城充樹(すめらぎみつき)にございます」  家人が、両側から襖を開けてくれる。お勤めの間には、金糸銀糸の広い布団が敷かれていて、枕元の行灯(あんどん)ひとつで薄暗く、背広の中年男性が息を荒くして正座していた。  僕はお勤めの間に入って、男性の顔を上目遣いでチラリと窺う。  ああ、やっぱり初めての参拝者様だ。   「お勤め、よろしくお願い致します」  決まり文句を言って平伏し、僕は参拝者様の緊張を解そうと、にっこりと笑って見せた。 「お勤めが初めての参拝者様ですね。わたくしが牽引致しますから、寛いで身を預けてくださいませ。心配はご無用です」  そして、参拝者様の手をしっとりと握った。 「(きぬ)は、わたくしが脱ぎましょうか? それとも、脱がせとうございますか?」  初めて、参拝者様が口を開いた。酷く興奮した息遣いだった。 「わ、私が脱がせても良いんですか?」 「ええ。お勤めに決まりはございません。参拝者様のお好みで結構です」 「じゃ、じゃあ、下だけ脱がせてください」 「畏まりました」  僕は立ち上がって袴の紐を解く。参拝者様が下から袴を引っ張って、狩衣と小袖だけの姿になった。下着はつけていない。  参拝者様も慌てて履き物の留め具を下ろし、下だけ脱いでいる。 「横になってください」 「はい」  布団をはぐって横になると、参拝者様の喉仏がごくりと上下するのが分かった。 「どうぞ、お好きに……」  僕は、また微笑んだ。途端、参拝者様が小袖の裾を割って、僕の分身にむしゃぶりついてきた。 「あ……ん」  今日の参拝者様は、僕の口を使うより、ご自分のお口を使うのがお好きなようだ。  夕餉の後だったから、正直、ほっとする。  初めは緊張にからからだった口内が、僕の先走りと唾液で潤ってくる。  ぬるぬるにぬめって、僕はその心地良さに背をしならせた。 「あ、あっ。いけません、わたくしだけが達してしまいます……!」 「ああ、神子様……! 私のを、扱いてください」  僕は求められた通り、参拝者様の赤黒く怒張した分身を、緩急をつけて巧みに扱く。  快感の呻きが漏れた。  と同時に、僕を銜え込んだ頭が、じゅぽじゅぽと前後する。 「あ・んあっ・もう……達します……!」 「ん――……っ!!」 「はぁん・あ――っ!!」  僕が先に達して聖液(せいえき)を口の中に吐き出した後、参拝者様も僕の手で達された。  参拝者様の喉仏が上下して、飲み込まれたのが分かった。  しばらく、互いに荒い息を整える。 「はぁ……()れますか? 解してあるので、準備は整っております」 「いえ、一回イったら、そんなすぐには勃ちません。神子(みこ)様の聖液を頂いて、御利益に預かります」 「そうですか。またいつでも参拝にいらしてください」  僕は起き上がって再び平伏し、決まり文句を言ってお勤めの間を後にした。 「お勤め、ありがとうございました」     *    *    *  服を着て、廊下を逆戻りし、僕はまた四角い木枠に切り取られた景色の中に戻って、南京錠をかけられた。  眠るまでの間は、明日のご神託の用意をして過ごす。 「ヨビ様。お休みなさいませ」  家人が布団を敷いてくれて、僕は眠りにつく。  今日のお勤めは、楽だったな。そんな事思ったら神様から天罰が下るかもしれないけど、寝る前に毎日、その日のお勤めの事が頭に浮かぶ。  ふかふかの布団に包まれて、僕は神様に仕えお勤めを果たす喜びを感じながら、眠りについた。

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