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第8話

本家を訪ねるのは正直楽しいものではない。そもそも本家の嫡男である3つ年下の従弟は早矢兎を毛嫌いしていた。いささか甘やかされて育てられた所為か自分の欲求に対する衝動も人への攻撃も容赦のない所がある。しかしどんなに虫の好かない相手であっても分家の嫡子としては下手(したて)に出る以外ない。 「やあ早矢兎さん、随分と体調が良さそうだね」 嫌味たらしく言われても穏やかに微笑む以外出来ない。あの夢の後早矢兎は結局四元漢方堂の処方に戻しているお陰か体調はすこぶる良かった。 「そう言えばこの間貴方の許嫁の君を百貨店で見かけましたよ。あれ程美しい方では娶った後もご自分でお洋服代位は稼いで頂かないと早矢兎さんの服まで賄えないのではないですか?」 普通では考えられない様な侮辱もこの従弟の口から出るのは日常茶飯事だった。 ***** 処方してもらった生薬が明日で無くなる為、早矢兎は再び四元漢方堂を訪ねた。主人の羊字も虎彦も相変わらずにこやかに応対をしてくれた。 あの夢は、妙に生々しい感触を伴ったあの夢は何だったのだろうかと問いたい気持ちを抑え、摩訶不思議な木の根や骨らしき塊を分けている虎彦を遠目に見ていると老人に声を掛けられた。 「何か気に掛かる事でもおありですか」 「ああ、いいえ。頂いた薬はよく効いて身体も大分楽になっています」 老人はにこやかに頷き口を開いた。 「一所に心を囚われると影になって見えない場所が出てきます。どうぞお気を付け下さい」 唐突に言われた言葉に驚いた。 「それはどういう意味でしょうか?」 「さあて、虎彦がおかしな匂いがすると言っておりましたので。夜道をお帰りになる時はお気を付け下さい。闇には色々なものが潜んで居りますゆえ」

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