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Second.1

 目覚めの朝。  いつも通りの時間にいつも通り叩き起こされた俺は、いつも通り全く隙のない男を見上げる。寝起きでも、そいつが意地悪な顔をしているのがわかる。だって、こんな朝を俺が迎えるのは1度や2度じゃないからだ。 「……リカちゃん。俺、まだ眠いんだけど」  さっきまで腕の中にあったはずの枕がない。それは俺を叩き起こしたリカちゃんによって投げ捨てられ、今ではベッドの下へと落ちていた。 「眠くても起きる。それが朝ってもんだよ、慧君」  ベッドに寝転ぶ俺を見下ろしてリカちゃんが言う。腰に手をあて、それとは反対側の左手にはジャケットを持っていた。きっちりとスーツを着込んだその姿を見て、俺から出るのはため息だ。 「お前、そんな格好で暑くないの?真夏にスーツ着て、ジャケットまで羽織るなんて頭おかしいだろ」  リカちゃんの左腕に抱えられたジャケット。それを見ながら言った俺に、リカちゃんが首を傾げた。 「慧君は変なことを聞くね。夏なんだから、当然暑いに決まってるだろ」 「変なのはお前の方だ。暑いって言いながらネクタイ締めて、ジャケット羽織るんだから。暑いならもっと涼しい服でいいじゃねぇかよ」  リカちゃんのこだわりなのか、半袖のシャツは着ない。今日もしっかりとアイロンのかかった長袖のYシャツだ。さすがにネクタイは緩めに締めてあるけれど、それだって学校に着けばきっちりと直すに違いない。 「リカちゃんを見てるだけで、汗が出てくる」 「これだけエアコンの効いた部屋にいて汗をかくなんて、慧君はよほど暑がりなんだな」 「お前が暑苦しいんだよ。お前の!見た目が!暑苦しい!」 「そう言えば昨夜も早く脱がせてほしいって言ってた。ごめんね慧君、そこまで暑がりだったなんて気づかなくて」 「だからそうじゃない……って、寄ってくんなバカ」  何を思ったのか、ジャケットをベッドの端に置いたリカちゃんが詰めてくる。少しだけあった2人の距離が消え、気づけばリカちゃんの手が俺の服にかかっていた。 「ちょっ、何してんだよ?!」  あれよあれよという間に器用な手が俺の服を脱がそうとする。音もなく部屋着のTシャツを捲り上げられ、晒された素肌が冷たいエアコンの風に震えた。 「……っ」  ぶるり、と震えた俺を見てリカちゃんが小さく笑った。 「おや。慧君、大変だ。慧君の可愛い乳首が熱で火照ってる」 「真顔でクソみたいな嘘ついてんじゃねぇ」 「本当だって。こんなに真っ赤になって可哀想に……今すぐ熱をとってあげなきゃ」 「熱をとるって一体何を──んんっ、ぁ?!」  驚くぐらい素早く身を屈めたリカちゃんは、俺が考える隙をついて唇を寄せた。リカちゃんいわく『暑さで赤く火照った俺の乳首』に。 「やっ、あ……んんっ、ァ」  くちゅり、とリカちゃんの舌が俺の乳首に絡みつく。ねっとりと表面を舐められ、尖らせた舌先で突かれると、行為に慣れた身体は自然と反応してしまう。 「はっ、んぁ……あっ、や」 「おかしいね、慧君。冷ましてあげようと思ってるのに、どんどん熱くなる」 「そんな、で、冷めるわけない……ンンッ、あ」 「でもこれはこれでアリかな。熱くて硬くて、真っ赤になって可愛い」  リカちゃんのせいなのか、それとも本当に元々なのか、乳首が熱い。じんじんと痺れて、舐められるたびに熱くなる。  起き抜けで油断しきっていた身体が疼くのはすぐで、乳首を舐められているだけなのに、全身がぴりぴりする。触ってほしくて、もっと強い刺激が欲しくなるんだ。 「や、やだ……リカちゃん、そこばっか、やだ」  逃げているように見せて、けれど自分から身体を寄せてしまう俺にリカちゃんが小さく笑った、 「気持ち良くなっちゃダメだろ。これは、慧君の熱を冷ます為の行為なんだから」 「でもっ、でも……あっ、やだ。やだ、そんな、噛むな」 「ほら。もっと胸を突き出して。じゃないと、いつまで経っても治まらない」  いつの間にか完全にベッドに乗り上げていたリカちゃんが、俺の胸元に顔を寄せながら言う。だから俺は、その首に両腕を回した。リカちゃんの香水の匂いがふんわりと漂ってきて、思わず鼻を鳴らしてしまう。  それに気づいたリカちゃんが顔を上げ、目を眇めながら俺を見つめる。  すごく、幸せな朝だ。

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