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リカちゃん先生にご用心

 * * *  ガラガラと鈍い音を立て教室のドアが開く。 「はい、おはよう」  今日も彼は黒いスーツに身を包み、その妖艶な瞳を楽しそうに煌めかせる。 「へぇ。結構知ってる顔あんだな」  口端だけを上げ、自信有り気に言い放つ。教室中の視線を集めていたとしても、動揺する素振りはみられない……というより、こいつに『動揺』なんて言葉は必要ないんだろう。 「今日からお前らの担任の獅子原だ。もちろん……あの噂は知ってんだろ?」  うちの学校にある噂話。  1つ 怒った教頭に近づいてはいけない  1つ 古びた旧校舎に近づいてはいけない  そして最後の1つ。最も重要で、最も気を付けなきゃいけない『噂』 「覚えとけ。俺を怒らせるなよ」  教卓から見回したリカちゃんの目が俺で止まる。すると、その瞳に潜む甘さが濃くなった…気がした。  ふわっと笑ったリカちゃんが、次の瞬間には真逆の表情をする。  意地悪で、偉そうで、何様なんだ?って聞けば「リカ様」と答えちゃうような、あの笑い方。    こてん、と首を傾げたリカちゃんは長い指で唇をなぞった。長い前髪をそれでかき上げ、うっとりとした笑みを浮かべる。  みんながそれに夢中になり、目をそらせなくなったところで言い放つ。 「……お仕置き、されたくないだろ?」  晴れ渡る青空が続く春、俺たちは2年生になった。  そう。  リカちゃん先生の内緒の授業はまだ始まったばかりだ。  『絶対に リカちゃん先生に近づいてはいけない』  リカちゃん先生に捕まったら………  逃げる事などできないほどに、夢中になってしまう。  ―――それが噂の真相。

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