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第76話

「それがどうした?」  それはもう、淡々と冷静に答えた美馬さんは首を傾げた。人の顔を平然とソファに押し付ける保父さん……そしてオカマの弁護士。そんな2人の言い合いは止まることはない。 「どうしたって……似合わないって言ってんだよ!このヤクザ保父!!」 「お前弁護士のくせに言葉選びが下手だな。そんなので勝てるのか?それよりも依頼来てるのかが心配だ」 「来てるわ!今日も新規の案件頼まれたわ!」 「へぇ。初めて会った時って挨拶するんだろ?どんな感じで?」 「え?普通に『弁護士の大熊桃太郎です。宜しくお願いいたしま……』って、また名前いじってんじゃねぇ!!」  すっかりおネェ言葉も忘れ、美馬さんにいいように遊ばれてる桃ちゃん。  表情を崩さず、真顔で言い返す美馬さん。  拓海だけじゃなく、珍しく歩まで声を出して笑って賑やかに時間は過ぎていく。 「楽しい?」  ぼんやりとみんなを眺めていると、リカちゃんが俺を覗き込んでくる。 「うん。こんな楽しい晩飯久しぶりかも」 「それなら良かった」  目と目が合ってお互いに笑う。なんだか穏やかだなあって、リカちゃんとこんな時間が過ごせるなんて不思議だった。 「これからもっと楽しませてやるよ」 「…………相変わらず偉そうだな」 「好きなくせに」  そうやって余裕そうに笑う顔が悔しい。  でも俺は知ってるんだ。  その手で、その目でどれだけ俺を守ってくれているか、とか……実はリカちゃんって意外と熱いところもあるんだとか。  俺は、俺の知っているリカちゃんに素直に答える。 「好きで悪いかバーカ!」  するとリカちゃんは驚いたように目を見開いた。その瞳は徐々に柔らかく優しく変わり、俺の頭を大きな手で撫でてくれる。 「やっばぁ……それは反則だって」  真っ赤な顔して言い放った俺の言葉に、リカちゃんは顔をくしゃっと崩して笑った。

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