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第1話
「しょうらいのゆめは、ねこさんになることです」
それは10年前の彼の夢。
<猫耳ブースター]
「え、おま、え、え、なにそれ、え?」
慌てふためく俺のその反応は至って正常。
「にゃー」
平静としてそれっぽく鳴いて見せる彼、猫山(ネコヤマ)が、異常。
「ええええ……?」
俺は言葉をなくした。
小学生の頃、「猫になりたい」と言っていた猫山は、有言実行タイプの男だった。
小3で転校して以来会ったことがなかった猫山。10年経った今ごろ、突然、俺の前に現れた。
猫耳を生やして。
「……お茶、どうぞ」
家の前で立ち話というのは、世間様の目が怖いから(だって猫耳のコスプレをした男が男に会いに来るとか)とりあえず家に入れた。
猫山は昔の面影を残したまま、爽やかな好青年へと成長していた。
猫耳は生えていたけど。
「ふーふーふーふー……あぢっ」
彼は猫らしく猫舌のようだ。
「……えー、その猫耳……? って、本物なの?」
「ほんも……にゃー」
猫山はこくんと頷く。
今普通に喋ったのに、明らかに言い直したよな?
突然現れてからにゃーとしか言ってこないが、普通に喋れるのか。ちょっとほっとする。
「ふーん……」
「……」
「……」
「にゃ?」
じーっと見ていると、小首を傾げて頭を差し出してきた。
よく見れば、ズボンから伸びる尻尾らしきものが、ふらふらと揺れていた。マジ?
「え、触っていいの?」
「にゃ」
ぐい、と頭を出してくるので、俺はおずおずと、耳に触れてみる。
黒髪から生える、真っ白の耳。
そっ、と触れると、それは確かに、猫耳でした。
「……すげぇ、な」
俺が感嘆の息を漏らすと、頭をぐりぐりと押し付けてきた。まるで本当の猫のようだ。
可愛らしくて、野良猫にするように頭を撫でてやる。
「んふふ……あ、にゃ、にゃあ」
つい声が出たのか、慌てて猫っぽく鳴く猫山。
あの猫山がそういうことを素面でやってると思うと、なんだかきゅんとする。
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