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第2話

 10年前の猫山を思い出してみると、そういえばクールな奴だったな、というのが印象。  小3にしては落ち着いていて物静かだった。  あんまりものには興味を示さないようで、窓辺で静かに読書、なんてのが似合うイメージ。  それでいて勉強もスポーツも軽くこなしてしまう。  それが今は、俺の家で、猫耳を生やし、にゃーと鳴く。この10年で人って変わるのだな(そういうことではない)。 「なんでそんな事になってるんだ?」  俺が聞いても猫山は、 「にゃー」 としか言わない。  にゃんにゃんにゃにゃん鳴いてばかりいる子猫ちゃん、そんな童謡の歌詞が頭に浮かんだ。 「まあ、別にいいけどな。このあとはどうするんだ? どこか行くのか?」  時計を見ると、午後の10時を指していた。  今から出掛けるには遅い時間だが、猫山が何を考えているのか、俺には理解しがたかった。 「にゃあっ!」  猫山は怒ったように声をあらげて、頭を横に振る。  行かないってこと? 「……うち、泊まるか?」 「にゃんっ」  俺の問いに嬉しそうに答えた猫山。今日初めてみた笑顔だった。  いや、猫山と出会って初めて、猫山の「無表情」以外を見た瞬間だったかもしれない。  猫山は荷物もなにも持っていない様子だった。  寝間着に、まだ使ってない下着や適当なTシャツにジャージ、それから買い置きのハブラシなんかを貸してやる。  家からも出たくない、そんな様子だったからそうした。  猫山と俺との身長差は5cm程度だったが、猫山は華奢だった。だから俺の服は少し大きい。 「……」  風呂上がりの猫山の姿に、ちょっと欲情しかける。  好きな子に自分の大きめの服を着てもらうってのは、男のロマンだろう。そのロマンが猫耳と尻尾をつけて目の前を歩いている。  俺も猫山も、19歳になる。  でも猫山は可愛かった。 「猫山はそのベッド使っていいよ。俺は下で寝るから」  適当に食事を済ませて(猫山を見てたら、なんとなく魚料理にしてしまった)、俺は猫山に言う。 「にゃっ」  猫山は俺の腕を掴んだ。 「え、なに」  そしてそのまま、ベッドに引っ張られる。 「?」 「にゃ」  猫山は布団に入って、そして俺の手を握った。  え、いやいや、だって。 「狭いぞ?」 「にゃ」  俺の言葉なんて聞かないで、俺の腕を引っ張る猫山。  19にもなって、10年振りに会った小学校の友人(猫耳をつけた男)と一緒のベッドで寝る。  なんて、普通じゃない状況だけど。

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