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三、

「しかしよ、花の京に来て喧嘩たぁ」 しかも買うんじゃねえ、売りにいくときた。 こんなこと、新選組の土方歳三と沖田総司のすることじゃねえ。そんな身分の拘束に今まで俺は随分、萎まされていたんだと。 今夜ここにきて、俺は今更そのことに気づいた。 「多摩のバラガキ土方歳三が聞いて呆れる。”久方ぶり”どころの域を越してる」 「違いねえ」 総司がくっと哂い返した。 「何十年ぶりかの気分だよ」 「ああ」 相槌ながら俺は隣行く総司を見上げた。俺も総司も、着流しに刀一本差しのさんぴん姿だ。この闇ん中、この格好見れば、だれも俺らを新選組の土方沖田と疑う奴は居まい。 そう思いながら、俺は隣の情人を上から下まで惚れ惚れと嘗めるように見た。 総司の頬の締まった面が着流しの着方に似合う。昔の宗次を見ている錯覚がする。 「歳さん」 俺の視線を愉しむように見返し、総司は不意に俺の頤を引き寄せた。 「あんたのその格好・・」 なんだ、俺と同じことを思ってたのかと哂った俺の、 「無性に、そそる」 唇を攫い、突然、裾うちに手を入れてきた。 「っん」 総司の硬い指先が俺の下帯の線をなぞり。 喧嘩を待ち望んですでに緩く形を成していた俺のものを、甚振るように握った。 「ば・・か、総司」 こんな道端でなにしやがる、と唇を離した俺に、こいつは沸々哂いながら俺の腰を抱き寄せ。 「昔はよく一暴れやる前に交わったね」 「・・・」 俺の腰を捕らえたまま見下ろす顔が、つい見惚れるほどの雄の顔をしていた。 「ばかやろう。こっちのほうは終るまでお預けだっ」 慌てて抗った俺は、どこかでまだ、 「・・いま欲しい」 己の身分の自覚を失ってないのかもしれねえ。 「だめだっ、誰か通ったらどうすんだよ」 昔は道端でやるのに躊躇なんざなかった。盛りゃ、どこでだって始めた。 「万が一、知り合いでも通ったら・・・っふ!!」 俺の抗声は最後まで届かず、総司の舌の動きに蹴散らされた。 「っ・・ふッ・・う」 なお俺が抗ってもがくのへ、総司の体が押してきて俺を道の壁ぎわに追いつめ。 背にひやりと冷たい壁の感触をおぼえた時。総司の太い腕が俺を抑え付け、一気にこの裾を捲くり上げた。 「う、ん・・ふっ」 総司が俺の舌を放さねえ。俺が振り上げた両腕を一瞬に捕らえ俺の頭上にくくり、その片手で壁に押しつけ。 そしてこいつのもう片方の手が。有無を言わせず俺の後ろを解しだした。 くそ・・これじゃ道通る奴が見れば、まんま犯られてる姿じゃねえか。両腕抑えられ、口塞がれて、それでも俺は総司の慣れた指の動きに、またたくまに常の快感のせりあがるさまを感じ始めていた。 「ふ・・んン・・ッ」 抑えきれねえ声が喉から抜けてく。いけねえ、このままじゃ受け入れちまう、そう思った刹那、ずるりとこいつの指が俺の中から抜け出た。 「っ・・」 頭ン中、くらくらする。身体がすでにこいつを求め出しているのへ俺の理性が必死に抗う間も、総司はてめえの裾を柔くからげ、猛ったそれを俺の身に押し付け。 「副長。その肩書き、・・今ここで外してみな」 不意に唇離した総司の眼が、そう嗤ったのが最後。 「・・・ッぁあああ!!」 俺の身体は下から突き上げられ貫かれた。 「ぁあッ、あっあ、は、ンッ」 凄え力強さで上下に揺さぶられて俺は、咄嗟に総司の肩に腕をまわし。地に俺のつま先がつくかつかないかの浮遊感が、身の奥に強烈な快感を波のように押し寄こし。 「そうじっ・・!!」 半ば持ち上げられた躰は完全にこいつへ委ねるしかなかった。 俺は総司の肩にまわしたてめえの腕に顔を埋め、此処がどこかも忘れて叫び出しそうになるのを必死に抑えた。 「んっ、あッああ、あ」 「歳さん」 からかうような慈しむような相反の情が混じり込む、総司のその低い囁き声が俺の耳元をくすぐる。 幾筋もの大小の快楽の波が駆け抜け、俺のなか、張っていた全ての箍が崩れ落ちてゆく。 「ぁあ、あっ・・そう・・じぃ・・ッ」 どうでもいい、 「んっ、ん、ああぁ、はっ・・」 もう、どうでもいいと。 此処がどこであっても、いっそこれが俺の元々の姿だと。俺の肩書きの、厳格で堅物な仮面に怯える滑稽な奴ら全てに見せつけてやりたいほどに。 「そうじっ・・も、う・・ッ・・!!」 箍が、崩れ去り。 「いいよ、・・飲んでやる」 引き抜くなり、俺の腰を抑えつけ、総司の口が限界を迎えた俺のものを深々と含んだ。 「あああぁ・・っ!!」 弾けるような快楽に溺れて、俺はどくどくと総司の口の中へと吐き出し。 闇に光るような総司の雄の眼が、俺を見、ごくりと嚥下して。淫らに口の端から舌を這いずりだし俺の味を確かめるように。 「っ総・・司、来いよ」 息が整わねえまま、俺は総司に手を差し伸べ。 伝って立ち上がった総司と代わり跪くと、 猛るこいつのものを俺は口内に咥えこみ、この喉奥へと迎えいれた。

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