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第28話

結局浬はこの日の午後は体育祭に参加することはなかった 八尋とは距離が縮まるどころかどんどん開いていくばかりでもどかしく感じる 浬は家に帰ると自分の部屋に直行しベッドへダイブした 「疲れた………」 男に押し倒された挙げ句壁ドンされ気がついたら相手の腹に膝蹴りをお見舞いしてしまった 自分ではいきなりあんなことをされ怖くてあまり力は入っていない気がしたが浬のが思うよりも威力はかなりあり大分ダメージがあったようだ これも吸血鬼故の事なのだろうが八尋にあんなところを見せてしまったのは申し訳ない しかしもう疲れて何か言う気力もない ふと先日ルシェルに会い綺麗な景色を見せてもらったのを思い出す 浬はむくっと起き上がりそこへ向かった 「ここだ」 一際大きな木の根元に来た その木にそっと触れてみる ゴツゴツとした木肌に大きな太い枝 御神木のようなその木に浬は足をかけ登り始めた すいすいと簡単に辺りの木と同じくらいの高さにまで到達した ルシェルの言う通り吸血鬼には人とは違って身体能力はかなりのものだ そしてもう一越えしこの間ルシェルと登った所と同じところまで来た 「うわっ凄い!!」 この前の夜空とは違いこの時は陽が沈む寸前 太陽が湖に反射しまるで二つの夕陽があるかのようでとても美しい 暫くそのまま眺めていると1頭の鹿が水を飲みに来た 可愛らしい鹿も見れてモヤモヤした気分は大分晴れてきた いつか八尋とここに来れたらいいなぁなんて考える この絶景を独り占めするのも勿体無い しかしルシェルは許してくれるだろうか? 今度会ったら聞いてみようと心に誓う 陽も暮れ帳がそろそろ帰ってくる時間だ 浬も帰ろうと木から降りる すると目の前にはルシェルがいた 「お帰り」 「ルシェル!!なんで……?」 「言ったでしょずっと待ってるって」 「言った……けど……」 本当にここで四六時中待っているのではないかと思うほどに浬が来るといつもいる しかし会えるのは嬉しい ルシェルは優しいしあたたかい 「ねぇルシェル、また会いたい 明日も来てもいい?」 「勿論大歓迎」 「やった!!嬉しい!!」 浬はルシェルと抱擁をかわし家に帰った

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