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第1話
「夏樹、見ろ! 『○○の種』を買ってきたぞ!」
変態教師・市川慶喜 が、帰ってくるなり嬉々として小袋を取り出した。
(また変なもん買ってきたよ、この人……)
笹野夏樹 は、呆れながら小袋を見た。
市川は夏樹が通っている高校の体育教師だ。学校での「人気教師ランキング」では常に一、二を争っており、見た目も爽やかなイケメンお兄さんである。
……が、爽やかなのは外面だけ。実際の市川は、夏樹をあの手この手で犯してくるとんでもない変態だった。学校のトイレで抜かれるわ、跳び箱の上で抱かれるわ、誕生日に大人の玩具で弄ばれるわ、さんざんな目に遭わされてきた。
まあ、今となっては夏樹もすっかり市川に絆されてしまったから、心情的には問題ないのだが……。
「というか何ですか、『○○の種』って」
差し出された小袋を眺めつつ、やれやれと溜息をつく。
今日は酉の市が開かれており、市川の自宅マンション近くの神社で盛大な祭りをやっていた。市川は去年買ったらしき熊手を引っ張り出してきて、
「俺、今からこれを今年のものと交換してくるよ。その間、夏樹は留守番しててくれ」
「……留守番? なんでですか? 俺も一緒に行きますよ」
「いや、でもホラ……また変なヤツらに絡まれたら嫌じゃん? 夏祭りの時より人も多いしさ」
「ああ、あのことですか……。でも、もうあんなこと起きないと思いますけど……」
「いやいや、油断は禁物だ。俺が目を離している隙に何かあったら申し訳ない。夏樹、可愛いしさ」
「……普通の格好で行けば、女に間違われることはないと思いますが」
「まあまあ。ちょっと行って取り替えてくるだけだからさ。今日は夏樹、留守番しててくれ。な?」
「はあ……しょうがない、わかりましたよ」
その代わり、ちゃんとお土産買ってきてくださいね……と念を押し、夏樹は市川を送り出したのだ。
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