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第14話

「……なんかあの植物、先生とちょっと攻め方が似てた気がする」 「えっ? そうなのか?」 「ええ。なんというか、その……俺のいいところを知り尽くしてたみたいで」 「ふーん……?」 「というか俺、明らかに男なのに、植物には『メス』として認識されてたような気がして……。裸にすればメスじゃないってわかるはずなのに、なんで襲ってきたんだろ……」  独り言のようにボヤいたら、市川は頭を掻きながらこう言った。 「詳しいことはわからんけど……アレかな、夏樹の喘ぎ声を聞きながら育ったから、お前のこと『メス』だと勘違いしちゃったのかな」 「……は? それ、どういうことですか?」 「いや、ホラ……あの植物、いつもベランダで育ててただろ? 実はあのベランダ、リビングの音結構聞こえるんだよ。だからここでしてたイチャイチャの音も、あの植物は全部聞いてたのかもしれん」 「えええっ!? なんですか、それは! じゃあ、俺が襲われたのは先生のせいってこと!?」 「いや、そこまでは……。これはあくまで想像だし、俺だってあんな植物……ぶっ!」 「知りません! もう最低っ! こんな変態教師と付き合うんじゃなかった!」  食べかけのピザトーストを顔に投げつけ、夏樹は勢いよく席を立った。  足音も荒くリビングを出て行こうとしたら、市川に素早く抱き留められた。 「そんなに怒るなよ。俺だってこんなことになるとは思わなかったんだからさ」 「だとしても、俺がとんでもない目に遭ったのは事実です! それはなかったことにはできませんからね!」 「わかったわかった! じゃあお詫びに欲しい物なんでも買ってやるから、な?」 「そういう問題じゃない! 先生がいなかったせいで、俺がどれだけ……」  夏樹の言葉はそこで途切れた。  黙らせるように唇を塞がれた後、ギュッと強く抱き締められる。 「悪かったよ。もう怪しい種は買って来ない。だから許してくれ、な?」 「……う……」 「触手に犯されたところも、俺がちゃんと洗い直してやるから。触手のことなんて全部忘れるくらい、たっぷり可愛がってやるから。な?」 「洗い直しって、あのねぇ……」  そんな風に言われたら、だんだん怒っているのも馬鹿らしくなってきた。  市川の胸板に寄りかかりながら、夏樹はこう要求した。 「……じゃあ、今度ホームセンターに連れて行ってください。そこで家庭菜園に必要な道具を買い揃えます」 「家庭菜園? いいけど、お前そんなの興味あったのか?」 「これからやってみようと思って。案外俺、植物育てるの性に合ってるかもしれません」 「そうなのか。じゃあ明日いろいろ買いに行こう。どんな野菜を育てたいんだ?」 「触手さえ出て来なければ、なんでもいいですよ」  そう言ってやったら、市川も「確かに」と苦笑してくれた。 (ったく……先生と付き合ってると、本当に変な経験値ばかり上がっていく……)  それでもこの人から離れられないんだから、自分もかなりの重症だけれど。

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