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第18話 ひと夜限り

   一緒に朝まで、一晩だけ。そう言われて仕方なく了承した。   ……眠れるわけがない。  ベッドの端と端に眠る、お互い触れないように。  「なあ、奏太?もう寝た?」  やはり瑞樹も眠れない、それはそうだ。    「……なに」  「お前がさ、望んでいる関係ってどんなものなの」    「身体だけの関係なら……」  「そうか」  「瑞樹、今日は何もしないつもり?」  このままじゃお互い眠れない、せめて瑞樹が眠りについてくれたら少しは楽なのにと思う。するりとベッドの中で瑞樹に近寄った、身体に手を回して密着させる。  「瑞樹、セックスしよう。俺も眠りたいから……」  男なんて直接的に刺激を与えられれば、引き戻せなくなる生き物。一瞬、身体を後ろに反らせた瑞樹の腰を掴む。体格差はほぼ無い。ぐっと引き寄せると瑞樹の服の中に手を差し込んだ。  「奏太、だから今日は……」  「うるさい、黙って。単なる眠るための通過儀礼だと思えばいい、このままじゃ眠れないのは瑞樹も俺も同じ」  これは単なる行為であってそこには何も無い。   それで良い。   それが良い。  身体の欲求に流されて、欲のままに繋がる。切なそうな瑞樹の瞳に勘違いしそうになる自分の心にブレーキをかけ鍵をかける。  そう……勘違いなのだ。  お互い眠れればそれでいい、たった一晩抱かれたからといって何も変わらない。  今まで大切なものは全てこの手の中からこぼれて流れて消えていった。  ……だから二度と手にしない、そうすれば失うことは無いから。  なかったことにするのは何より苦しいから、俺を嫌って消えてくれるのが本当は一番いい。  ぼんやりとした切ない思い出より、強い嫌悪として残ればいい。  瑞樹が愛してくれた奏太は権藤に身体を売った時に葬った。そして、権藤と過ごしたリュウももういない。  これからは新しくやり直して五年の空間を埋める作業に入らくてはいけない。  だから過去には戻らない。  「奏太、身体だけじゃ嫌なんだ、お前を全部取り戻したいんだ」  「瑞樹、死んだ人間はね蘇ることはないよ。取り戻すなんて出来ない。あの時の俺の幻を追いかけているんでしょう、だったら壊してあげるよ」  瑞樹の脚の間にゆっくりと頭を沈めると小さな声がした。瑞樹、ちゃんと眠らせてあげるから、身体を満たして俺の事は葬り去って……。

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