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第17話 初日
いきなりやってきた来訪者のせいで落ち着かない、にこやかに笑う瑞樹が不安にさせる。
「飯、どうすんの……」
「一緒に食べよう、何か買ってこようか?」
「……基本、食事は自分で作って食べているから」
「そうか。じゃあ、俺は自分の分は買ってくる。奏太はいつもの通り生活しててよ、俺は邪魔はしないからさ」
二人分作るのも同じ手間だとは思うけれど、なるべく距離を置くためにも接点を減らしたい。
いつものように簡単に支度を済ませテーブルに着いた時に、瑞樹がコンビニの弁当を下げて帰ってきた。
がさがさと音と立てて袋から取り出された、カップ麺を見てため息が出た。
「夕飯は作るから」
これから毎食目の前で、こうやってコンビニの袋を開けられるのも不快だ。
「まじか、嬉しい。ありがとう、奏太」
素直に喜ばれて、更に居心地が悪くなった。
昼食の後、瑞樹が散歩に行かないかと誘ってきた。別に断る理由も無い、二人で近くの公園まで歩いた。
ベンチに座る、何も話すことなどない。ただ池を二人で見つめていた。目的も理由もなく、ただ時間を過ごした。
二人で並んで何も話さずに歩いて帰る、ただそれだけ。不思議な一日が過ぎて行った。
夕飯を食べる間も別にこれといって取り立ててすることもなく、当たり前のようにただ同じ空気の中にいた。
苦しんだ、すべてを失って本当に。そしてようやく立ち直れそうなところまできた。なのに今更高校時代の青い恋愛になって戻れない。過去も自分の一部なのだ、それを帳消しになってできない。勘違いして二人でいることが幸せだなんて思わない、なぜ瑞樹にはわからないのだろうか。
「あのさ……今日の夜どうするの」
「ん?十日は絶対に帰らないよ」
「いや……そうじゃなくて、どこで寝るのかと」
「一緒に眠りたいんだけど、駄目?」
「セックスするのは、構わないけれど」
「ねえ奏太、キスさせてくれる?」
「無理」
「んじゃ、駄目だ。丸ごと俺にくれるまで手は出さないよ。ソファで寝るから大丈夫、気にしないで」
気にしないでと言われて「はい、そうですか」とは言えない。
「それも迷惑なんけど……」
「じゃあさ、何もしないから一緒に眠ろう。明日は布団を買ってくるよ」
権藤はここには来たことが無い。母親はここへ越す時にはもう引っ越してしまっていた。俺が会いに行くことは会ってもここに来た事は無い。この場所は自分独りだけの場所だった。何で俺……ここに瑞樹を入れたんだろう。自分で自分を追い詰めている。
どうしても自分の心のバランスが取れない。
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