24 / 30
第24話 原点
別れる?付き合えないなら別れると言われても、今現在つきあってさえいない。瑞樹は何が言いたいのだろうか。
「どういう意味……」
「俺をみて答えて。奏太、俺と付き合ってください」
「無理だから」
「じゃあ、きっちり俺に諦めさせてよ 」
どうやって?付き合ってもいないのに、諦めさせろ、別れるなどと言われても……スタート地点がないのにゴールはどこだと聞かれているようだ。
「奏太?……本当にもう俺じゃない?今、好きな人がいるのか?」
「……」
「無理強いするつもりはない、けど……」
逃げようとすると、腕を強くつかまれた。
「待って」
「離して、俺にはもう係わらないほうが良いんだ」
「……係わらない方がいい?係るな……じゃなくて?」
ドアのノブにかけた手を上から抑えられた。
「奏太、やっぱお前面倒だな、ちゃんと言葉にしろよ。……明日付き合え、一緒に戻ろう」
「……どこに?」
「俺たちの原点、出会った場所。お前を連れて行きたいところがあるし。ここに戻ってくる時に結論出してくれればいい」
「結論って……」
「それは奏太、お前次第。もしもその時、奏太が俺を要らないって思ったら……そしたら。後八日頑張って、それでもだめな時の最終手段にと思っていたけど、その前にお前またにげちゃうもんな」
そうしたら瑞樹が俺の事を諦める?
瑞樹は知らないだろうけれど本当は諦めきれてないのは、俺なんだ。瑞樹に別れると言われて、身体が震えているんだ。
原点に戻るって……何がしたいのだろう。
そもそも俺たちの原点って、何?
あの街にあるのは淀んだ過去と消せない未練だけ。眩しい想い出は何もないというのに。
「何しに行くのか分からない……」
「奏太にどうしても見せたいものがある、奏太はきちんと知らなきゃならない。それだけ」
「何を….…」
それっきり瑞樹は黙ってしまった、だから俺も何も言わない。
「とりあえず、帰る」
「駄目、帰さない。大丈夫、無理にどうこうしようと思ってるわけじゃないんだ」
「着替えもないし……」
「そこ、俺の服着て。下着なら新しいのコンビニで買えばいい、行こう」
手を引かれて立ち上がる。その手の暖かさに、瑞樹の手の暖かさに……違う、勘違いしないようにしなくちゃいけない。
自分の立場をわきまえる。それが大切。手に入れなければ、失うことはない。最初から持っていないものを失くすことはないから。
手に入れてしまうと、失うことが怖くて何もできなくなるんだ。だから、二度とこの手にはしない。そう決めたはず。
ともだちにシェアしよう!