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第25話 賭け
コンビニまで二人んで歩く。瑞樹と歩く速度も歩幅も一緒。高校生の時一緒に並んで歩くだけで嬉しくて、気が付いたらお互い同じ速度、同じ歩幅で歩くようになっていた。それが、今でも変わらないと知った。
「瑞樹、なんで俺なの」
「わかんねえな、なんで奏太じゃなきゃ駄目なんだろう」
「そう」
それだけでまた沈黙が始まった、だから二人並んでただ歩く。
「奏太は?お前は俺以外でもいいの?それとも俺以外がいいの?」
「俺は.…..独りが正しいんだと思う」
瑞樹は俺の答えをどうとったのか分からないが、その話はそこで終わってしまった。これ以上話すこともない、それはそれでよかったのかもしれない。
「飯、弁当でいい?何もないから」
落ち着かない。コンビニで買い物している時も、瑞樹の視線がチクチクと刺さる。目を合わせないようにと避けても見られているのがわかる。
視界の端に何か見えたと思ったら、いきなり頬に手が触れた。
身体が硬直したように動けなくなる。視線が合わないよう逸らしていた顔を瑞樹の方へ向けてしまった。そこにあったのは泣きそうな顔。
……感染る、瑞樹の気持ちが流れ込んでくる。
それとも俺の気持ちが瑞樹に移り込んで行ったのか……。
縮められる距離に心音が駆け出す、このまま心臓が止まればいいのに。
この瞬間に消えられればきっと幸せに逝ける。母親も居場所を見つけた。ここまで来るのにもう充分頑張った、また落ちるのは無理。
でも早鐘のように打つ心音は速くても規則正しくて、生きることを諦めてはくれない。
「やめて……」
瑞樹の手がすっと離れた。
「ごめん。顔見たくて……嫌ならもう触らないから」
嫌じゃない。けれど、胸が苦しくて呼吸が落ち着かない。一緒にいれば、そのうちに瑞樹無しでは呼吸もできなくなる。そうなる事が怖い。
引き返すはずの道がだんだん閉ざされていく、飛び降りるか引き返すか、それしか選択肢はないはずなのに。
差し出された瑞樹の手は取らない、だとすると二度と会えないのだろう。
「俺、諦め悪くてここまで引きずってしまったからさ、だから決めたんだ。もしも、奏太がやっぱり俺と一緒にいるのは無理だと思ったら…そしたら……まあ、良いか。その後の事は奏太には関係ないもんな」
自分の言葉に瑞樹自身が傷ついた顔をした。その言葉はどちらに向かう刃だったのだろうか……。
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