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第1話 別離
「ねえ、本当に良いの?俺、待つって言ったろ。大切にしたいんだ、奏太の事」
「ううん、違うよ。俺が待てないの」
「大学受かったらって、二人で決めた事じゃん」
「ごめんね瑞樹。でも、どうしても今日じゃなきゃ駄目なんだ」
そう言うと、少し困った顔をした瑞樹が、優しくキスをしてくれる。
ああ、瑞樹とのキスは気持ち良い。浮遊しているような気分。
「んふっ、ん」
自分の耳に戻ってきた、自分自身の声に煽られて肌か粟立つ。
絡んだ舌から銀色の糸がひく。
何度も何度も角度を変えてキスをする。酸欠でくらくらとしてくる。
「瑞樹、好き。本当に好き」
声が震えているのが自分でも分かる。
「奏太、どうしたの?何だか泣きそうな顔なんだけど。怖い?怖かったら止めよう」
「違うよ。俺、幸せだなって。俺の最初は全部瑞樹だから」
「俺も。これからもずっと一緒な。やばい、ちゃんと出来んのかな」
……高三の夏休み最初の日。
瑞樹の家族が出かけた隙を狙って、自分から仕掛けた。
何度もお互いの身体は触った事がある。でも最後までいくのは大学になったらと言う約束だった。
あと半年か、長いのか?短いのか?そう言って瑞樹は良く笑っていた。
「大学生になったら、二人で一緒に住もう」
瑞樹はそう約束してくれた。
……それだけで充分。
「奏太、大丈夫?痛い?痛いよな、どうしよう」
「大丈夫、どうしても瑞樹が欲しいから」
瑞樹でいっぱいにして、優しくしなくて良いから。身体に刻んで、これが最初で最後だから。
「あ、は…入った。すご、やば...奏太っ。俺……お前の事大切にするから。愛してるから」
「ありがとう瑞樹、俺を好きになってくれて……」
ごめんね瑞樹。これで最最、さよなら瑞樹。もう俺の我儘を聞くこともないから。
瑞樹は、俺の想いに応えてくれた。
愛してる、幸せだと言ってくれた。もう十分、これ以上は望まない。
果てて眠ってしまった瑞樹をじっと見詰める。手を伸ばしてそっと瑞樹の携帯を手にした。そして瑞樹の携帯のロックを解除する。
お互いの誕生日が暗証番号。隠し事は無いから、そうしてと先週頼んだ。いいよと笑ってくれた瑞樹。ごめんね嘘ついて。俺は隠し事だらけだ。
メモリーを辿って、すべてのメールのやり取りや履歴を削除する。写真も一枚残らず。これで良い。
眠っている瑞樹の髪に触れるか触れないかのキスをする。そして音を立てないように静かに瑞樹の部屋を出る。これで最後。ごめんね瑞樹。
目が覚めたらきっと怒るかな。心配するかな。そして..…俺の事、嫌いになるかな。
でも、嫌ってくれた方が良い。
ばいばい、瑞樹。
……俺の最初で最後の恋人。
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