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お題『衝動を抑えろ!』(稜而×遥)
「♪せーんろはつづくーよ、やーまのてせーん! ぐーるぐるはしーって、おーおさきへー! とうきょうそうごうしゃりょうセンター♪ ……へ行くんですのん! 遥ちゃんは知ってますのん。JR大井町駅東口を出たら左、駅に沿ってケーキ屋さんの手前の角をもう一度左折すると、たーっくさんの線路が見えますのよ。そこはお仕事を終えた山手線がねんねしたり、お腹をもしもししたりする東京総合車両センターなんですのん。写真もありますのよー」
遥は山手線の座席に座り、偶然隣に座った見ず知らずの少年に、自分のスマホ画面を見せる。
「あ、901系!」
少年は目を輝かせ、スマホ画面にぐっと顔を近付けた。
「おーいえー! クハ901-1なのん。『21世紀の通勤電車』試作車第一号、今の通勤型車両の礎となったエポック・メイキングちゃんですのん! 静態保存されてますのよー」
「クハ901-1なの? 量産化改造されてるよね」
「静態保存されるときに、車両番号表記が復元されましたのよ。ほら、ここ。見て見てくださいませなのん」
少年と遥は楽しげに話すが、少年とは反対側の隣に座っている稜而には、会話の意味が分からない。
「遥って、こんなに鉄分多かったっけ?」
前髪を吹き上げ、背もたれに寄り掛かるのと入れ違いに、遥は自分の両膝に肘をついて前屈みになった。
「おーいえー! SL! シゴナ ナ! 貴婦人さんなのん。夏休みにお出かけになったのん?」
少年のリュックサックから出てきたアルバムをのぞき込んで、思い出話を熱心に聞き始めた。
「わーお、駅弁! 美味しかったですのん? このご飯は……、カツオとワカメ? あーん、んがくくってなっちゃいそうですのーん」
遥のはしゃいだ声を聞きながら、稜而は口の中で呟く。
「駅弁……」
稜而の脳裏には、遥が自分の首にしがみついて喘ぐ姿しか思い浮かばない。ふっと下腹部が熱くなって、意識を逸らそうと背後の車窓を見ようとしたが、稜而の目玉は前屈みになっている遥の腰で勝手に止まった。
Tシャツの裾が持ち上がって白い肌が見え、背中とジーンズの隙間からはフランボワーズ色の下着が覗く。
(ヤバい。手を入れたい!)
稜而は視線を釘付けにさせたまま、静かに唾を飲み込んだ。
(二人きりだったら、いつだって好きなときに手を入れられるのに。これだから公共交通機関での移動は嫌なんだ)
腕組みをして前髪を吹き上げたが、相変わらず目玉だけはびくともせず、ただひたすらに遥の下着を見ていた。
「おーいえ、遥ちゃんもちょっとだけ日本の小学校に通ったことがありますのん。だからお給食でわかめご飯を食べましたのよ」
「わかめ……、酒……。それもいいな。わかめ、ないけど」
数日に一度、遥のアンダーヘアを短くトリミングするのが稜而の役目で、酒を注ぎたい場所がどんな様子なのかは、世界中の誰より、遥よりも近い場所で見て知っている。
「電車って楽しいですのん。線路の上を……、おーいえー、シーザーズクロッシングも萌えますのよー。電車がこやって、こやって、うねーって!」
遥が身体をくねらせて、肌を突き上げる背骨が尾てい骨に向かって波のようにうねった。
「ああ、もうダメだ!」
稜而は自分のスマホを取り出した。
「遥、次の駅で降りるよ」
「え? 池袋はまだ先なのん。山手線半周、30分の旅ですのよー」
「予約が取れたから、別の電車に乗せてあげる」
稜而が遥だけに自分のスマホ画面をちらつかせると、遥は座席から立ち上がった。
「あらーん! 遥ちゃん、別の電車に乗るご用事ができちゃいましたのん。楽しかったですのよ。またどこかでお会いしましょうね! あでゅー!」
少年に手を振り、ドアが開くなりホームへ飛び出していく遥の手を掴む。
「危ない。走るなよ」
注意するくせに、自分は大股でずんずん歩いた。
「痴漢プレイまであと少し。我慢しろ、俺!」
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