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お題『痴話喧嘩』(舟而×白帆)

 電車の中で、白帆はずっと口を噤み、隣に座る舟而とは反対の方へ向いて、車窓を流れる景色を見ていた。  うえのー、うえのー、様々な方向へ一斉に歩き始める人の中を、白帆は草履を履いた足で難なくすり抜けて行く。舟而は革靴を履いた足でそのあとを追った。 「待てよ、白帆!」 「いやです。先生のご実家で、あんなふうに紹介されたら、もう二度と行けないじゃありませんか!」 白帆は足を素早く交互に出して階段を上がり、改札口でハサミを鳴らす駅員の手にボール紙で出来た切符を載せて、改札を出て行ってしまう。  舟而もあとからやってくる人の波を止めながら、背広のポケットから慌てて切符を取り出して改札を抜けた。  ようやく公園の銀杏並木の下で追いついて、羽織の背中へ声を掛ける。 「本当の事を言って、何が悪い! 見合いを勧められそうになったんだぞ! それとも僕に見合いしろと言うのか!」 「そ、それも困りますけど」 歩みが遅くなった白帆の前に回り込み、両肩を掴んで叫んだ。 「君は僕の伴侶だ!」 周囲の注目を集め、白帆はまた顔を赤くして、舟而の腕を掻い潜ると、早足に歩いて行ってしまった。 「まったく。どんな速さで歩いたって、帰る先は同じ家なのに」 舟而は片頬を上げ、つんのめりそうな程の早足で歩く白帆の後ろを、軽やかな駆け足で追い続けた。

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