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近年、同性パートナーシップ制度というものが出来て、法律上の効果はないものの同性カップルでも婚姻関係が認められる制度を導入する自治体が出てきた。
こんな制度がなくても養子縁組をすれば法律上家族にはなれるのだけど、海里は俺の息子ではないし、やはり堂々とパートナーとして認めて貰えるのは喜ばしいことなので、ありがたくその恩恵を受けることにした。証明書の発行には少々金が掛かるが。
ちなみに、テレビも新聞も読まない海里は『いつのまにか同性同士で結婚できる世の中になっていたんだな』と噛み締めるように言っていた。
正確には同性婚ができるようになったわけではないのだが……(日本全国どこでもできるわけではないし)説明が面倒だったのでスルーした。
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「さて、あとは証明書が届くのを待つだけとして……これで俺たちはめでたく夫夫 になったわけだけど」
「ああ」
「引越しは、おまえが俺の家に来る形でいいか?別のところに引越してもいいけど、俺は分譲マンションに住んでるし、おまえの所よりも広いからそのままの方がありがたいな。おまえの職場からもそんなに遠くないし」
「……おお」
海里は俺の部屋に一度も遊びに来たことがないので、俺がマンションを買ったのは知っているものの、俺の部屋で一緒に住むという選択にあまり実感が湧かないようだった。
自分の部屋には、まるで同棲しているかのように俺の物を置いてくれているのに。
「……俺と一緒に住むのは嫌か?」
「え?」
「無理強いはしない。俺が強引に結婚してくれって頼んだんだし。今のまま、別々のところに住んでいても……」
本当は、嫌だけど。
けど俺が勝手に海里に気持ちを告げてプロポーズしだだけで、実際海里は俺を好きだとかなんとかはひとことも言っていないのだ。
俺は海里にずっと好かれていると思っていたけど、それは俺の勝手な想像に過ぎなくて、海里の本心は分からないままだ。
もし、海里は本当は俺のことなんて全然好きではなくて、結婚するメリットだけに心を傾けたのだとしたら……ショックだけど、俺はそれを受け入れるしかない。
たとえ海里にその気がなかったとしても、もう生涯を共にするパートナーとして自治体に申請をしたのだからこっちのものだ。
卑怯かもしれないけど、既成事実的な……
「……勝手に俺の気持ちを決めるな」
「え?」
「結婚したら一緒に住もうって……そう言ったのはお前のほうだろ」
「でもおまえ、要相談って」
「嫌なら嫌だってその時にはっきり言う」
俺は海里の顔を見た。
海里は、初めて恋を自覚した中学生みたいに真っ赤だった。
小さい黒目をあっちこっちさ迷わせて、震える下唇をぎゅっと噛み締めて。
……………ああ。
「な、何とも思っていない相手にプロポーズなんてしないってお前言っただろう!そんなの俺だってな、その……だから……!」
意を決したように俺をきゅっと睨みつける目には、相変わらず俺を惑わす色気があって。
俺は、学生時代に海里に好きだと告げなくて本当に良かった、と思った。
「海里……キスしてもいいか?」
とうに40を過ぎているくせに、こんなに可愛いだなんて卑怯だ。反則だ。
これが20代だったら、俺は朝も昼も夜も海里に夢中になって、二人して一日中ベッドから出られない日が続いて、俺も海里も卒業はおろか、論文の一つも発表できなかったに違いない。
あのとき告白をしなかった俺の選択は、間違っていなかったのだ。
「はあ!?こ、ここ、外だぞ!」
「知ってる。でも、今おまえにキスがしたいんだ……ダメか?」
言葉なんかいらなかった。
そして俺は、何度でも海里に恋をする。
【終わり】
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