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03-12
島には景色をなだらかに変えた人工ビーチだけでなく、海水浴場に指定されていない自然の浜も残っている。
幾つか回って最後に足取り重く、秀野と花火をした近所の砂浜を訪れた。嫌になるくらい、何も変わっていなかった。
「暑くない?」
秀野のことをこれ以上思い出さないよう、人のいない砂浜を並んで歩く手塚に声をかける。
「暑いです。脱いでいいですか?」
「だめだろ。暑いんだったら泳いでくれば?」
投げやりな気分で適当に手塚に言った。
「このまま?」
「いいよ、行け行け。ここからだったら家近いから濡れたら一回帰ればいいし」
突然手塚が波打ち際に向かって走り始めた。徐々に歩幅を大きくするが、高い位置でキープされたフォームは崩れず綺麗で、ダンスでジャンプするときのように踊っているみたいだった。
ざばざばと数歩波に足を取られ、最後はざばんと勢いよく飛び込む。日差しを纏い、手塚の周りに飛沫がきらきら光って落ちる。
ざばんと波から顔を出し、髪をかきあげる仕草が様になっている。カッコつけやがってと思うが、純粋に振り切った雑さが似合っていると思った。
服に染み込んだ水分など気にならない様子で波打ち際に戻り、波と平行に走り始める。野生の鹿のように跳躍は正確で高く、目を奪われる。
あっと思った瞬間、手塚は今度は体を預け倒れこむように海に飲まれた。スローモーションで見ているかのように姿は波間に消え、大きなしぶきが上がる。
向こうの水平線には、光る銀の道が揺れて見えた。たった今、輝く砂を撒き散らしたみたいに。あの時と同じで、全く違う。記憶を塗り変えてしまうダイナミックさにくらくらする。
何度となく何度となく、飽きるほど見た海。何度も何度も、思い返した光景。どれにも重ならない。
その中で飽きず海と戯れる男は、野生動物のように自由に見えた。
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