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04-02
シャワーを浴びた後、髪をタオルで拭きつつ部屋に戻ったタイミングでスマホが震えた。
「お、出た!電波ないのかと思って心配したじゃん。どうよ撮影はー?」
携帯越しに、あっけらかんとした神崎の声を久しぶりに聞いてほっとする。
「電波くらいあるわ!あ、いや、電波ないかもってくらいの田舎だけど。ほんとだよな。携帯繋がって、まじ良かったわ。撮影?まだ始まってないよ」
「え、まだなの?じゃ、よしくん、そっちで何してんの?」
「うーん、泳いだりとか?散歩とか?」
嘘ではない。まだそれしかしてない。
「いいな、いいなー。俺も遊びに行こっかなー」
「来れば?」
神崎のスケジュールを考えれば絶対無理なのに、無責任に言った。
そのまま会話は流れ、次の新曲がまとめて上がってくるらしく、よってPV撮影もまとめてになるから日程がタイトそうだとか、メンバーのひとりが腹壊しただとか、ロケで北海道に日帰りで行ってありえなかったとか、とりとめないことを話した。
「そーいえばさー、シュレディンガーの原さんとこの前番組一緒で話したんだけど、よしくんにまた出て欲しいって言ってたよ」
「あー、先月のバラエティね」
お笑い芸人の原の看板番組に、若手芸人たちにダンスを教えるという小企画で手塚はピンで出演した。元々は他のメンバーにきた仕事だったが、スケジュールが合わず手塚に流れてきたものだ。
場を盛り上げるトークなどできない手塚は言われたままに簡単な動きを教え、自分たちの曲の短いパートを全員で一緒に踊って無難に撮影を終えた。
「あれのよしくん、めちゃくちゃ面白かったー。俺何回も見ちゃった!」
「どこがだよ?見たのかよ?見んなよ、もう!」
手塚は普通通りにレッスンしていただけだが、若手芸人たちは少しでも自分がカメラに写ろうと、大げさなほどのコミカルな動きをしたり、定番ネタを挟んだりして盛り上げていた。
テロップで『これがイケメンのダンス』『常にクールな先生』などと比較して手塚は持ち上げられ、動きにキラキラした効果音や映像にわかりやすい特殊エフェクトが加えられるとそれなりの面白さに仕上がってはいた。
勝手にイメージをつけられることは今更気にならない。事務所がオッケーを出したのなら、手塚に異存はない。なんと言っても、芸能界では地味な部類の自分が、グループの『クール担当』なのだから、もう勝手にしてくれという気分だ。
「よしくん、超真面目に指導しててさ、それがさらっとピンポイントでいいとこついてんだよー。『この動き毎日やったらお腹に効きますね…多分』とか、お腹見て、間のとり方が絶妙だし」
「あれは編集の技術だよ。面白くなるように作ってんの」
「いや『この瞬間止めてから流すテクニックで、動きひとつにもキレが出ます』って芸人さんに定番ネタさせてさー『ネタにもキレが出ましたね』ってさらっと言うとこ笑ったー」
「そこは台本があるの。もー!覚えてんなよ!恥ずかしい」
「違うんだって、よしくんがやるとあざとくなくクールでSっぽいんだよ。原さんもそこがいいって言ってたよ。『まだまだいけるだろ?』ってS王子スマイルで言うの、サイコー笑った」
「あれは完全に台詞!カメラ目線だっただろ?もういいから!」
本気で止めているのに、これからもう一回見よ、よしくん不足だからーと、神崎は笑っている。
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