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「でもさー、ああやって笑いとっといて、最後のカットはお疲れ様ーってみんなと肩叩きあってたりとか、よしくんの方から『ありがとうございました』って素の笑顔で挨拶するところとか入っててさ、いつも思うんだけど、原さんの番組って優しいよね。人をキャラの駒としてだけ使わないって徹底してる」  単なるオフショットだと思っていたが、神崎に言われて初めてあのカットで手塚のイメージが大分上げられていることに気づいた。Sキャラのアイドルだけで終わるのとは手塚のことを知らない視聴者の印象はかなり変わってくる。 「原さんもだしさ、ファンの子達だってそうだし、絶対よしくんのいいとこ、もっと見てくれる人がたくさんいると思う。ま、一番見てんのは俺だけどな」  初めこそ年下の神崎が懐いてくる感覚だったが、仕事を始めると神崎はあっという間にしっかりしてきて、手塚が疲れているときなど絶妙な気遣いで甘えさせてくれる。 「おまえ、最近青春ドラマに出すぎだからそういうこと言うんじゃないの?二十歳過ぎて制服なんて着てるから!」 「制服まだ似合ってるからいいじゃん!でも、ほんとだよ。俺は単純に露出が多いからいいねって言ってくれる人もいるけど、よしくんのこといいって言う人は、すごいちゃんと見てるなって思うもん。で、一番いいとこ知ってんのが俺ね」  嬉しいなと思いつつ、ヨシズミズナンバーワン!イェィ!と訳のわからない単語を口走る神崎を、もう本当にいいからとたしなめる。それって、どっちがどっちの一番?なんか違うくない?と返しながら、すっかり気持ちが軽くなっている。 「ほんと、よしくん、噂とか気にしないで、今回の仕事思い切りしなよ」  解散や手塚がグループから切られるという噂を手塚が気にしていることまでわかっているのだろう。ふわっと浮いた気持ちが途端に少し沈む。 「…て言っても、俺、演技とか全然ダメだし」 「アイドルだってある意味演技してる部分はあるわけじゃん。最初っからジャンル違いなんだから演技論とかから始めたって仕方ないんだし、知ってる感覚から寄せてみたら?俺は結構そうしてるけど。よしくんは自分のやり方でやってみたらいいと思う」 「帰ったらチューしてくれる?」 「おー、いくらでもしてやる、してやる。だから、やるだけのことはやってこい」  ライブで気分が盛り上がったらほっぺたや耳たぶに口づけることはあるが、本当のキスなどしたことがない。柔らかな見た目を裏切る男前な答えに笑った。  ありがとな、史弥愛してる、やっぱヨシズミズナンバーワンだよ、と最後まで茶化して通話を切った。  運動量はそこそだけれど長時間炎天下に晒され、体はぐったりしている。畳の上で仰向けにごろりと転がり、イヤホンを耳に差し込み目を閉じる。  すぐそこで、麻生に話しかけられている感じがする。 ーー ほんとはこんな感じ良くないけど。感情垂れ流しのイタいやつだけど。  不意に今朝の泣き顔が浮かんできて、すぐに遠くへと押しやった。  今日見た景色を思い出しながら、どこでどんな風に『彼』が佇んでいるのか想像する。 『彼』はこちらに手を伸ばしてくる。自信なく、手を取ってくれるのかと不安な、揺れた心で。その手を取り引き寄せ、『彼』の心をもっと知れたら、どんなだろうか。  目を閉じて心地よい声を聞いていると、波にさらわれるような気がしてくる。

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