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玄関まで見送ろうと手塚の後ろをついていくと、リビングを出るところで突然手塚が立ち止まって振り返ったから、麻生は驚いて「おわっ」と訳のわからない声をあげた。
「聖さん、一緒に暮らそうよ。俺、事務所にもちゃんと言うつもり。どう?」
「…うん。いいよ」
「お、いい返事。幸先いいね」
振り返ったままの体勢で、ちゅっとリップ音を立てる軽いキスをされた。スタイリッシュな外国映画みたいだと麻生は思った。
「見送り、いいよ。俺、今浮かれてて恥ずかしいから」
ーー なんだその可愛い答えは!
手慣れたキスをしておいて、手塚はこちらを見もせず俯いている。
その背中を麻生が後ろから羽交い締めにしたら、ジャケットしわになるじゃんと、本気っぽい口調で怒った。それも照れ隠しだと知っている麻生は、ニヤニヤしながら手塚の横から顔を覗き込むようにして、ずっとドアの前までついて行く。
靴を履くときまで、じーっと顔を近づけていたから、手塚の手が伸びて来た時には遠ざけられるのかと思い、ふぃと顔を逸らした。
ぐいとその手に頭を寄せられ、深く唇が合わされる。角度を変えながら食まれ、麻生が唇に隙間を開けずにいられなくなるまで、たった数秒。
麻生のものを探して差し込まれた欲望を隠さない舌に喜んで絡ませる。狭い空間に吐息と濡れたキスの音が響き、煽られる。
頭ごと抱き寄せられているからではくて、離れられない。離れたくない。
ーー 朝から、なにやってんだよ!
そう思うのに、麻生の弱いところをひたすら攻めてくる巧みで濃厚なキスに抗えない。最後まで互いを引き止めながら、名残惜しさの中で離れていく。
「意地悪した仕返しです」
手塚がしれっとした顔で言う。
「なんで敬語?」
「なんでも!じゃ、俺、行くからね!」
濡れて少し腫れぼったくなった唇を人差し指で押され、距離を取られる。
愛してるよ、そう言いながらウインクをして、さっき麻生の唇に触れた指を自分の唇につけ、投げキッスをくれた男がドアの向こうに消えた。
「くーーーーっ!!!」
麻生は声を出し、玄関先にしゃがみこんで身悶える。
アイドル手塚め!
どこまでも心揺さぶられる。どこまでも恋に落ちてく。それが心地よくて、ひとりでくすっと笑ってしまった。
fin. もしくは so sweet happy end
2017 秋
花緒 すず
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