1 / 25
第1話
繁華街の喧騒を背に家路を急ぐ。ネオンすら喧しいこの場所がササキは嫌いだった。酔っぱらった中年が肩をぶつけ、何かどなっている。若者達の大きな笑い声。ホステスの呼び込み。何とかしてササキの前を塞ごうとする彼らを躱していく。速足で歩いていると、突然学生のような青年が目の前に飛び出してきて、正面からぶつかった。小汚い恰好をした男は「あいたたた」と頭を掻き、ササキを見上げる。何か因縁をつけられるのかと身構えると、彼はへらへらと笑った。
「お兄さん俺と遊ばない?」
無視して横を通り過ぎようとしたササキの腕を、彼は掴む。
「ちょっと待って!待って!カラオケとかでいいからさ。俺……お金なくて……」
家出か物乞いか。若いのにたいしたものだ。いや、若いからこそか。掴まれた腕を振り払おうとすると、彼は上着の裾を引っ張ってしゃがみ込んでしまった。ずいぶん強引だ。なんだこいつはと、彼を見下ろすと、ぐーっと腹のなる音が聞こえた。
「あはは、腹減ってるんだ……」
気が抜けたように彼はうなだれた。
ともだちにシェアしよう!