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第10話-2
「鍵かけてないなんて不用心だなあ」
目の前にハルがいた。
コンビニの袋を手にさげている。
「どいてよ」
入口をふさぐように立っていたササキを押しのけて、部屋に入る。
「お腹へってるんでしょ。虎の子の千円つかっちゃったよ」
「どうして……」
「俺、気持ち悪いなんて言ったことある?」
じろりとササキをにらみつける。
「それに、仕事したいって言ったのは、あんたと対等になりたかっただけだよ」
対等?
「お金目当てであんたと一緒にいるみたいじゃん」
……違ったのか?
「さ、最初はそうだったけどさ……」
「…………」
「お腹が減ってるから変なこと考えちゃうんだよ」
意味のわからない理屈を述べながら、テーブルに弁当を置くとぽんぽんと座布団をたたいた。
「食べようよ。こっちきて」
呆然としながら言われるままに腰をおろす。
「ハル……」
声がかすれる。手が震える。目の前になぜか戻ってきたハルがいる。
「俺あんたのこと結構好きだよ」
笑顔でそう言った。
体が熱くなる。頭に血が上ってよく理解できない。
ハルは今なんて言った?
俺が好き?
結構ってどういうことだ?
でも、手を伸ばして触れてもいいということか?
ササキは机を押しのけると、ハルの肩を掴んだ。
「あーちょっと!せっかく買ってきたのに落ちちゃうよ!」
強く抱き寄せると、首筋をかんだ。
「もう、痛いって!」
でもササキの体を押しのけたりしない。
「マーキングしなくても大丈夫だよ。俺はあんたの前からいなくなったりしないから」
さっきとは違う涙があふれた。
「俺と、俺と一緒に……」
「うん。あんたと一緒にいる」
「俺の、ものに、」
「はいはい。あんたのものだよ」
ササキの背中を優しく叩く。
「軽い……」
「しょうがないよ。俺こんな感じだし」
ハルは肩を押して、両手でササキの頬に触れた。
そっと顔を近づける。口づけて、ササキの唇を軽く噛んだ。
「これであんたも俺のものね」
そう言ってうつむいたハルの顔は、耳まで真っ赤だった。
「照れてる」
「だから、そういうこと言わないでよ」
どん、と、こぶしでササキの胸をたたくと、満面の笑みを浮かべた。
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