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第10話

 洗濯したものをたたんでいるハルの背後から、ササキは強く抱きついた。 「なにーどうしたの?」  はっと体を固くして、ふるりと震える。 「あ、昼間からベッドいくとか?」  恐る恐る振り返ろうとするハルを押しとどめるように、ササキは抱きしめる腕に力をこめた。 「このままで聞いてくれ」 「ん」  手を止めて、前を向いてササキの腕をつかんだ。 「俺はお前が好きだ」  ピクリとハルの体がはねる。 「だから……」  ハルのうなじに顔をうずめて言った。 「出ていってくれないか」  ハルは何も言わなかった。 「部屋を借りてしばらく生活できるぐらいの金は渡す。だから、……」  ぎゅうと力を強くして、ハルの体を締めあげた。  手放したくない。 「酷いことをしてきたのはわかってる。好きだなんて、気持ち悪いと思うのもわかってる。セックスと引き換えにここに置いてやってるなんて、嘘だ。お前を手放したくなかった。だからもう、俺の前にいないでくれ。手に入らないままなんて、気が狂いそうだ。いつかきっと、壊してしまう」  ハルはつかんでいたササキの両腕から手を離す。じっと押し黙ったまま俯いていたハルは、今までに聞いたことのない低い声で言った。 「わかった」  ササキの手をほどくと、立ち上がって、振り返らずにそのまま部屋を出て行った。 バタンとドアが閉まる音が聞こえる。  追いすがろうとする手を無理やり押さえ込んだ。  これでいい。これでいいんだ。俺は手に入らないものを自ら手放した。手の届く範囲にいるのに俺のものじゃないなんて、辛いだけだ。  本当に?  疑問を押しつぶして手を握り締めた。  涙が頬を伝う。  ああ、涙なんて流したのはいつ以来だろう。  俺はこうやって、自分を守って生きてきたのだ。  身勝手な俺を受け入れてもらうことを、はなからあきらめて。  自らの心情を吐露することを恐れて。  俺はこのままずっと一人だ。  それでいいんだ。    なのに胸が押しつぶされそうだ。  自分が招いた結果に、なぜ俺は泣いているのだろう。    しばらくぼんやりと壁を見つめていた。たたんでいる途中の洗濯物が置いてある。ハルの痕跡をつぶしていかなければ。  しかしササキは動くことができなかった。  どれぐらいそうしていたのだろう。  インターホンがなった。  こんな時に。いったい誰だ。俺を訪ねてくる奴なんていないはずなのに。  涙をぬぐって、立ち上がる。  ドアを開けようと手をのばすと、先に誰かがドアを開いた。

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