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第五話『 WhiteRum 』 上

       随分と息をつめるクセがあるのだな、と花厳(かざり)は感じた。  太く触り心地の良い彼の白い尾の先端が、小さく痙攣してはまたぽすりとシーツを叩く。  先端部分がダークグレーに染まる彼の尾は、シーツの上でもよく目立つ。  そんな彼の尾は今、桔流(きりゅう)の意志に関係なく“勝手に動いてしまっている”状態であった。  実のところ、自分たちの尾は意外と勝手に動く。  自分で動かそうとしていなくても、意識していなければ知らない内にゆらりゆらりとしている。  勿論神経は通っているから、何かされれば感じるし、踏まれれば痛い。  ただ、尾は耳よりも随分と自由気ままに動くのだった。 「ん……っ」  桔流が少し身じろぐと尾は先ほどよりも大きく振られ、またぽすりとシーツを叩き横ばいに布地をなぞる。   花厳はそんな桔流の尾の反応も楽しんでいた。   自分たちの尾は自分たちの顔や言動などよりも表情や感情が分かりやすい。  動かないよう意識すれば制御はできるが、そうでないは限り気分がよければ揺れるし、落ち込めば垂れる。  気になる事があるとついぴんと立ち、警戒心が強まればもふりと毛が逆立つ。  そして、刺激を感じていればびくりと痙攣したりもする。  根元からしなるように痙攣してみたり、先端だけぴくりぴくりと震えてみたり、反応の仕方も様々だ。  また、何かを紛らわそうとする時はたしりたしりとどこかしらに叩きつける事もある。  例えばそう、今の桔流のように。     ―ロドンのキセキ-瑠璃のケエス-芽吹篇❖第五話『WhiteRum』―      花厳(かざり)桔流(きりゅう)と繋がっているのはまだ手だけなのだが、彼はずいぶんと感度が良いようで、それだけでも彼の身体は敏感な反応をみせていた。  腰をひねらせ、上半身は花厳の元から這って逃げるような体勢をとり、縋るようにシーツを乱す彼は花厳が内側をこする度に身体に力をこもらせ息を吐く。  たまに小さく漏れる掠れた声は弱々しく、最初に比べ声色は高く可愛らしいものになっていた。  それでも彼は未だに息を詰めるように度々声を耐えている。  どうやら桔流は“声を出さないようにするクセ”があるようだった。 「は、ぁ、……っ……ッ」  大きく跳ねる腰に合わせて声が漏れるその度に口を抑える彼の姿は、その余裕のなさをその様子で体現しているかのようで花厳の悪戯心をくすぐった。  花厳がこれまでに見てきた彼といえば焦りを見せる事などほとんどなく、ただ美しい外見に見合った落ち着きをもち常に余裕のある、そんな青年であった。  だがこんな風に熱をもった艶のある表情で余裕なく呼吸を乱れさせ、刺激に敏感な身体をひどく反応させる一面を知り花厳はぞくりとさせられる。  いつまでも見ていたい。  そう思うほどに魅力的なその光景を少しでも長く堪能する為、花厳は桔流に気付かれないよう彼の弱い部分を度々わざとかすめては、より大きく反応する彼を楽しんでいた。  真っ白な毛色に相応しい色白な桔流の肌は熱を帯びればすぐにほんのり赤みがかり、それがまた酷く色気を醸し出していた。 「………………」  花厳はただ、静かに呼吸しながらそんな彼の肌を眺めつつ、度々彼の敏感な部分を擦り上げる。  するとそれに応えるように桔流は背をそらせ、尾はしなりシーツを叩く。更には身体の部分部分に力がこもり、足先でもシーツを掻く。  そうして乱れた桔流の呼吸音が花厳の聴覚を侵し犯す。  恐らく本能に忠実な自分の耳は、桔流の方に向きっぱなしなのだろうと花厳は思う。  今の自分をいつもの彼が見ればきっと変態、と悪戯めいた口調で言われるのだろうなと想像した。  まだ本番前の準備のような段階なのに、それですらも果ててしまいそうな桔流の反応をこのままもっと眺めていたい。  そんな欲望と、一刻も早くもっと近い距離で熱のこもった彼の表情を堪能し、溶けそうなほどの熱を芯で感じ乱したいというそれこそケダモノのような欲望とが花厳の中で戦っている。 (まだ、もう少しだけ……)  現在の戦況はと言えば、まだ侵し入るには早いだろうと前者の欲望が勝っていたのだが、そんな時、今までシーツを乱していた桔流の手がシーツに突いていた花厳の手に触れた。  彼の肢体を眺めそのなまめかしさに気を取られていた花厳は、はっとなり桔流を見る。  そして花厳はその桔流の表情に再び本能を抉られた。  桔流は肩で息をしながら色素の薄い唇をほんのりと赤くさせ薄く開き、快楽に嬲られ濡れた瞳で花厳を見上げる。  物欲しそうな表情、とはまさにこういった表情の事だろうな、と花厳は思う。  その表情に魅せられ、失った言葉を探していると桔流の口が微かに動く。 「もう、……から」 「え?」  掠れ、吐息と共に発せられる桔流の声は異様なほど艶を帯びている。  だが言葉まで聞き取れず、花厳は少し彼との距離を縮める。 「もう……大丈夫ですから……早く……」  花厳は桔流が何を言わんとしているのかを分かった気がした。  だが花厳はその言葉の続きも彼の声で、そして彼の言葉で聞いてみたかった。  だからあえて返事をせず、彼の瞳を見つめるだけにして先を促してみた。  そんな花厳に桔流はわかるだろう、というような切ない表情で見返してくる。  花厳はそれにごめんね、と心の中で告げながらわざと小さく首をかしげる。 「ん、なんだい……?」  桔流は鈍く貫いてくる内部の刺激に眉を顰め、そっと瞳を閉じ快楽の熱を感じさせるように息を吐く。  そしてすっかり潤んだ瞳で再び花厳を見、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「もう……挿れて、花厳さん……」  酷く切ない表情で桔流はそう言い、花厳の手をゆったりと包みこむように撫でる。  花厳はそれに刺激され、肺からせり上がってきたような息を押し出されるままに静かに吐き出す。  くらりと脳が揺れる感覚を受け流し、花厳は手の甲を撫でていた桔流の手を裏返すようにして握る。 「もう欲しい……?」 「んっ……欲しい……です……」  彼に焚き付けられた事で花厳の心も痛いほどに興奮し、自然と声に吐息が混じる。  そんな花厳の声帯は、彼が自覚できるほどに低い声を作り出す。  その音と言葉に刺激されてか、桔流の目が細められ吐息が漏れる。  更には花厳の指を呑みこむようにして、熱を帯びとろけた部分はきつく締まる。  花厳はそんな反応に桔流の快楽や欲情を感じながら、彼を愛おしく思った。 「ん……っ……は、ぁ……」  そんな気持ちに押され、花厳は名残惜しむようにゆっくりと熱から指を抜き取り、桔流の身体を自分の方へ開かせる。  力ない彼の身体はされるままに表を晒した。  ところどころ腫れたように赤らむ肌は、ほどよくしっとりとしていた。  呼吸する度に上下する胸元を眺め、視線でなぞるように彼の肢体を堪能する。  そして、彼の中で熱を堪能し終えたっぷりと濡れた指先で、今度は桔流の受ける快楽の強さを示すかのようにしている部分を撫でる。 「んン……っ」  花厳の濡れた指で撫でられひくりと反応した彼の熱を、その根元からぎゅっと絞り上げるようにしてやると、桔流の口からは深く震えた吐息が押し出された。  花厳はそんな彼のすっかり腫れ上がったところを何度かきつめに愛撫しつつ、先ほど刺激し続けてすっかり濡れて柔らかくなった部分を見やる。  そちらには今度、指に代わり自分の熱をあてがい、その先端や裏側でねっとりとこすり上げるようにして刺激する。  花厳はそうしている中で、桔流から漏れる何度目かの吐息から彼の急かすような気持ちを感じた。そな彼の気持ちに応じるように、桔流の熱を包み込んでいない方の手で彼の柔らかな太ももを撫で、事前に控えさせていた物を取り出そうとすると桔流が何かを言った。 「……ない」 「ん?」  今度は素直な疑問から、封を開けようとしたそれを口で噛んだ状態のまま花厳は首をかしげる。 「……いらない、です……しなくていい」 「え、でも」 「やです、そのままがいい……」 「桔流君、それはすごく魅力的なお誘いだけど……今日は外に出してあげられないと思うよ……」 「いいです……中に欲しいです……」 「でも……」  困ったな。そう感じるのは今日だけで何度目だろう。  花厳はそれなりに経験豊富な方だったが行為中にここまで翻弄されるのは初めてだった。 「お願い、花厳さん……」  足をたたんだ状態で両膝を突いていた花厳の股下で微かに動いていた桔流の尾が、その言葉にあわせて花厳の尾の根元をなぞるように撫でた。 「まったく、後悔しても知らないよ」  そう苦笑して控えさせていた包みを置き、次いで自分の股下で悪戯をする桔流の尾をシーツに押し付けるようにして根元から強めに撫でる。  それによりぴくりと尾を痙攣させた彼にそのまま覆いかぶさるような体勢で顔を寄せる。  桔流の熱ですっかり濡れきったお互いをすり合わせるようにして花厳が唇を寄せれば、桔流から軽く唇を食んでくる。  花厳はそれに応えるように彼の唇を食み、一度離しては触れ合わせてを繰り返す。  花厳の大きな手はお互いの熱を重ね合わせながら包むには十分で、そのまま根元から先端までを絞り上げるように幾度となく愛撫する。  そのきつめの愛撫に促されるように桔流の腰は絞りあげられる度に滑らかに反り、波打つように反応する。  深く口付ける中で、塞ぐものがなくなった桔流の喉からは先ほどよりはっきりとした声が漏れる。      

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