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9.作戦会議

「見事に巻き込まれたね」 「……一般生徒なのに。」 「コレだけ学園中枢の仕事をこなせて、今さらソレはないでしょ」  泣きついた晃心に副隊長はにべもなく言い放った。 「平和と平凡をこよなく愛するのに……」 「希望を語っている時点で、最早アウトって知ってる?」 「……何で世良(せら)は、そんなに怒ってるの?」  普段はパッチリとした大きな目でジットリと()め付けられて、晃心は居心地悪く顎を引く。 「……『ナンで?』? 自分の立場解ってる?! はじめは少しだけでも、大倉なんかの手伝いしたいって言ったよね? それが睡眠時間も食事時間も何もかも削って、クズ役員の尻拭いまでだなんて冗談じゃないッ!!」  散々な言いザマだ。  他の親衛隊が聞いたら大目玉ものだ。ついでに制裁もの。彼は本当に自分と同じ副会長の親衛隊なのかと、時々疑問に思うことがある。幸いにも、ココは世良の部屋なので他人が聞いている確率は低いが。そういえば同室者はどうしたのだろう。晃心がこの部屋を訪れるといつも居ない。会ったこともない。 「晃心、聞いてるのッ!?」 「き、聞いてるよ……」  コブシひとつ分しか身長差がないはずなのに、何故こんなに迫力があるのだろう。どうやら怒り狂っているらしい副隊長を見上げながら、ヒッソリと思案する。 「――で、どう思う?」  今までの事を彼に事細かに伝えたのは、何も説教される為ではない。世良に多大な心配を掛けているのは承知している。しかし今欲しいのはソレではない。  声音を真摯なものにして相手を仰ぎ意見を求めれば、かわいらしく口をへの字にして勢いが止まる。 「……確かに、おかしいと思う」  やはり杞憂(きゆう)でないかもしれない。  水際で大倉が足掻いているが狙ったかのようにギリギリ保てるほどの仕事量に、発足されない生徒会対立団体、不気味なほど静かな風紀委員会の動向。風紀については一緒に仕事をしている副委員長に聞いてみればいいかもしれないが、果たして情報を流してくれるかということ。まず片足を生徒会に突っ込んでいる彼に対して風紀内部でかん口令(こうれい)が敷かれている可能性も否定できない。あそこのトップが例の委員長なのだからやりかねない。そして、一番不明なのは晃心を経由して副会長へ印を(たく)す生徒会長の思惑。  誰がドコまで噛んでいるのだろうか。  現在の生徒会を潰して再建するのでなく、呼び戻し改心させる訳でもなく。針上でバランスを保っているような大変危険な状態を、わざと維持させようとしているように思えてならない。 「――でも。でも、コレ以上は晃心が首を突っ込む所じゃないよ」  熱していた声音から一変、静かに諭しはじめた友人を正面から見据える。 「ありがとう、世良。大好きだよ」  やさしい彼は、気遣ってくれている。  微笑んだ晃心をしばらく無言で見つめていた世良は、長い長いそれこそ肺いっぱいの二酸化炭素を吐き出した。 「ずるい」 「ん?」 「俺が晃心に弱いって甘いって知ってて、そういうこと言う」 「ごめんね」  ペチ。 「どうせ言っても聞かないだろ」  軽く頬を掌で挟まれ、やや不貞腐(ふてくさ)れているのか相手は口を尖らす。  本当に、やさしくて、かわいくて、大切な友人だ。 「――うん。ありがとう」 「当たり前だよ、晃心の『お母さん』の代わりなんだから。いつでも泣きに来なさい。嫌がっても、ずっと横に居てやるんだから」  ありがとう。  彼が居てくれているから、自分は思いっきり走ることができる。  世良のぬくもりに一度は閉じていた目蓋を開いて、間近に迫った瞳を覗きこむ。 「もうちょっと我がまま言っていい?」 「……」  イケズな世良は頷いてくれませんでした。

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