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第3話
* * *
掃除を終えたタクローが、さてと……とつぶやいてベッドに腰かけ、満面の笑みで両腕を広げた。
「さあ、おいで」
おいでと言われても、どうすればいいのか。壮太は微妙な顔をして、ニコニコしているタクローをながめた。
「どうしたんだ? 遠慮をすることはないんだよ」
「遠慮をしているわけじゃなくって、なんでベッドで迎えられるのかが、わかんないんだよ」
キョトンとしたタクローが腕を下ろして言う。
「ふかふかの胸に抱きしめられて、あたたまりたいと言っていただろう」
欲望のままに無心で願いをぶつけたので、なにを言ったか壮太はよく覚えていない。しかしやわらかな乳房に包まれて、冬の寒さを忘れたいという願望は持っている。覚えていなくとも言ったのだろうと納得はしたが、壮太が求めているのは女性のふくよかな乳房であって、ムッキムキの男の胸筋ではない。
「いや、それ、ぜんっぜんふかふかそうじゃないし」
「ふかふかだよ? 触ってみるといい」
ほらほらと胸を突き出されて、触らないわけにはいかなくなった壮太はイヤイヤながらも手を伸ばし、タクローの盛り上がった胸に手をあてて、スンッと嫌悪を落とした。
「や、やわらかい」
「ほらね。ふかふかだろう?」
「なんで?」
「力を入れれば、硬くなるよ」
フンッとタクローが気合を入れれば、胸筋がピクピク動いて硬くなった。頬をひきつらせた壮太を見て、タクローはすぐに力を抜いた。
「張りがあって、やわらかくていい筋肉だろう? なにより、筋肉はあたたかいんだ。脂肪は冷たいよ」
暗に女性の乳房では暖は取れないと示されて、壮太は苦く笑いつつ手のひらの感触を味わった。ふわふわしているが、指を押し返すほどよい弾力があって気持ちがいい。なんというか、この手触りはクセになりそうだ。
(やわらかいんなら、揺れるのか?)
試してみたくなった壮太は、胸筋の下に手を添えて持ち上げてみた。手のひらを動かすと、胸筋がプルプル震える。
「おおっ!」
喜色に声を弾ませた壮太に気をよくしたのか、タクローはグイッとベストを広げた。
「直に触ってもかまわないよ」
お言葉に甘えてと、壮太はベストのなかに手を入れて、胸筋の肌触りをたっぷりと味わった。
(これは、ヤバイ)
いつまでも触っていたい。壮太はグイッと胸筋を寄せ上げて、谷間を深くすると顔を押しつけてみた。
「おおっ」
想像以上に気持ちがいいし、あたたかい。壮太は死ぬまで体験することはないだろうと思っていたパフパフに夢中になった。このさい、男の乳でもかまうもんかと、あたたかくやわらかな感触をたっぷりと味わう。
どうせ彼女いない歴が年齢とおなじ、クリスマスどころかイブもイブイブもバイト以外に予定のなかった、さみしい童貞男なんだ。だれかに見られているわけじゃないし、疑似おっぱいをたのしんだっていいじゃないか。
やけっぱち気味に、壮太はタクローの胸筋いやさ雄っぱいを堪能しまくった。
「っ……壮太、そろそろ満足したんじゃないか」
顔を上げた壮太は、目じりを赤くしてあらぬ方向を見ているタクローにドキリとした。なまめかしさをにじませる表情に、壮太の胸と股間が熱くなる。
(俺……なんで?)
雄っぱいの感触に興奮をしてしまったんだと、壮太はタクローを見上げたまま雄っぱいを揉んだ。
「ぅ……っ」
ちいさくうめいたタクローに、壮太の股間がビクンと反応する。雄っぱいを揉む指が乳首を擦ると、タクローの頬がピクピクする。気づいた壮太は手のひらで雄っぱいを揉みながら、指の間に乳首を挟んで偶然を装いながら刺激した。
「そ、壮太……そろそろ、昼食の準備をしたいんだが」
「まだ腹は減ってないよ」
中途半端な時間に、たっぷりと朝食をとったので空腹ではない。たとえ腹が減っていたとしても、この手触りから離れるのは惜しい。なにより、タクローの堪える顔がエロくて目が離せない。
(俺、男もイケたっけ?)
そんな気はなかったはずだが、古来より英雄色を好むというし、昔から偉い人は同性の恋人がいたなんて話を耳にするから、タクローに興奮してもべつだん奇妙ではないと、壮太は自分の興奮を受け入れた。
「壮太……っ、なら、お茶にしないか……小腹をなぐさめたくはないか」
(小腹より、俺の股間をなぐさめられたいんだけどな)
クリクリと親指で乳首をこねると、タクローが喉奥で「んぅっ」と啼いた。ギュンッと壮太の股間に血が上る。この胸なら、パイズリだって可能じゃないか? なんて考えが、壮太の頭をよぎった。
「壮太、もうっ」
グイッと肩を押されて、壮太は雄っぱいから離された。リーチはタクローのほうが長い。壮太は指を伸ばして、遠ざかった胸筋のやわらかさを求めた。
「遠慮しなくていいって言ったのは、タクローだろう?」
「それは、そうだが……私は掃除をして疲れたから、お茶がしたいんだ」
ふうんと唇を尖らせて、壮太は手を下ろした。ホッとしたタクローの目じりが赤くなっている。チラリと股間を見ると、ブーメランパンツの前がモッコリしていた。乳首もコリコリしていたし、ぜったいに感じていたんだと壮太は流し台の前に立つタクローをながめる。
(俺、なんて願ったんだっけ。たしかエロくて家庭的で……エロ漫画みたいな相手をって言ったはずだよな)
となれば、エロ漫画とおなじ展開になったっていいんじゃないか。相手は男だが、このさい贅沢は言ってられない。というか、タクローはそこはかとなくエロかった。壮太が望んだムチムチボディのセクシーで清楚な女、という非現実的な相手とは対極にいるようなタクローだが、ムチムチボディで家庭的という点は合っている。雄っぱいの感触もよかったし、反応も色っぽかった。よく見れば小ぶりの尻も魅惑的じゃないかと、壮太はムラムラしながらタクローの後姿をながめた。
急須なんて上等なものは、ここにはない。タクローは白い袋に手を入れて、ゴソゴソすると急須と茶葉を取り出した。それだけでなく、そろいの湯呑と饅頭までが袋から出てきて、壮太はおどろいた。
(ほんとうに、なんでも望むものが出てくる袋なのか?)
やっぱりこれは夢なのだと、壮太は納得した。現実で、そんなことがあるはずはない。だとしたら、なにをしたって許される。
夢のなかのクリスマスプレゼントを、思うさま味わい尽してたのしもうと、壮太はニヤリと唇をゆがめた。
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