7 / 28
3日目・1
腕が動かない。
両腕は後ろで拘束されていた。
ぼんやりとした意識で、周囲を見やるといつもの古びた6畳間だった。くすんだ畳の上に、無造作におそ松は転がされていた。
「っ―――、!」
口の端にズキッと痛みが走った。口の中も痛い。鉄の味が広がっている。
どうも殴られたらしい。
なんでこんなことになっているのかと思考を巡らせていると、不意に肩を蹴られ、顔を上に向けさせられた。
「たくっ…面倒くさいことしやがって」
「…っっ!!」
男が目の前に居た。
フェラを強要し、容赦なく蹴ってきたあの青年だ。
しかし、前とは違って、口元が見えている。黒く塗り潰されているのは、目元だけだった。そのためか、今回はやけに声がクリアに聞こえた。
ざらついたねっとりと纏わり付くような声音だった。
そして、ギザギザの歯に軽薄そうな薄い唇が、楽しそうに笑っているのが、ひどく怖かった。
後頭部の髪を乱暴に掴まれる。
「おい、おそ松。こんなことしてもな、すぐにバレるんだよ?」
男の手には、グシャグシャになった紙が一切れあった。
そこには、焦って書いたと思われるとても雑な字で、『たすけて』と書いてあった。
(ああ…なんだっけ。誰が書いたんだっけ…?)
「仕事に連れてってやったのに、いらんことしやがって」
男の声に苛立ちが見られた。
記憶にはないが、男の話しぶりからすると、おそ松がそれを書いたらしい。それが男の逆鱗に触れ、殴られ蹴られ、意識を失ったところ拘束をされたようだった。
「言ったよなぁ?『逃げたらお前の家族は皆殺しだ』って?」
「っ、!!?」
――――『皆殺し』。
その言葉を聞いた瞬間、ドクンッと心臓がひどく跳ねた。
そういえば、前も【誰か】からそんなことを言われた気がする。それは、とても恐ろしくて、おそ松の鼓動は警報のように体中で鳴り響いた。
そして、グサッと目の前で、包丁が畳に突き立てられる。
「っ、あ…、あぁ…っ」
ガチガチとおそ松の歯が鳴り、サァっと血の気が一気に下がった。
「それともお前は、家族を皆殺しにされたいのか?」
口が、大きな口が、喋っている。
まるで飲み込まれそうだ。
男の口から出てきた言葉に、おそ松は怯え、全身を小刻みに震わせながら、頭を左右に振った。
「ちが…ちが、う…っ」
「だったら、もうこんなことするなよ?」
「うんっ、うん…っ、約束する…っ」
今度は頭がもげそうになる程、上下に動かして頷いた。
男がフッと笑い、許されるのかと思っていたら、その次の言葉に、おそ松は更に恐怖することになった。
「じゃあ、お仕置きもしっかり受けろよ?」
ともだちにシェアしよう!