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3日目・1

腕が動かない。 両腕は後ろで拘束されていた。 ぼんやりとした意識で、周囲を見やるといつもの古びた6畳間だった。くすんだ畳の上に、無造作におそ松は転がされていた。 「っ―――、!」 口の端にズキッと痛みが走った。口の中も痛い。鉄の味が広がっている。 どうも殴られたらしい。 なんでこんなことになっているのかと思考を巡らせていると、不意に肩を蹴られ、顔を上に向けさせられた。 「たくっ…面倒くさいことしやがって」 「…っっ!!」 男が目の前に居た。 フェラを強要し、容赦なく蹴ってきたあの青年だ。 しかし、前とは違って、口元が見えている。黒く塗り潰されているのは、目元だけだった。そのためか、今回はやけに声がクリアに聞こえた。 ざらついたねっとりと纏わり付くような声音だった。 そして、ギザギザの歯に軽薄そうな薄い唇が、楽しそうに笑っているのが、ひどく怖かった。 後頭部の髪を乱暴に掴まれる。 「おい、おそ松。こんなことしてもな、すぐにバレるんだよ?」 男の手には、グシャグシャになった紙が一切れあった。 そこには、焦って書いたと思われるとても雑な字で、『たすけて』と書いてあった。 (ああ…なんだっけ。誰が書いたんだっけ…?) 「仕事に連れてってやったのに、いらんことしやがって」 男の声に苛立ちが見られた。 記憶にはないが、男の話しぶりからすると、おそ松がそれを書いたらしい。それが男の逆鱗に触れ、殴られ蹴られ、意識を失ったところ拘束をされたようだった。 「言ったよなぁ?『逃げたらお前の家族は皆殺しだ』って?」 「っ、!!?」 ――――『皆殺し』。 その言葉を聞いた瞬間、ドクンッと心臓がひどく跳ねた。 そういえば、前も【誰か】からそんなことを言われた気がする。それは、とても恐ろしくて、おそ松の鼓動は警報のように体中で鳴り響いた。 そして、グサッと目の前で、包丁が畳に突き立てられる。 「っ、あ…、あぁ…っ」 ガチガチとおそ松の歯が鳴り、サァっと血の気が一気に下がった。 「それともお前は、家族を皆殺しにされたいのか?」 口が、大きな口が、喋っている。 まるで飲み込まれそうだ。 男の口から出てきた言葉に、おそ松は怯え、全身を小刻みに震わせながら、頭を左右に振った。 「ちが…ちが、う…っ」 「だったら、もうこんなことするなよ?」 「うんっ、うん…っ、約束する…っ」 今度は頭がもげそうになる程、上下に動かして頷いた。 男がフッと笑い、許されるのかと思っていたら、その次の言葉に、おそ松は更に恐怖することになった。 「じゃあ、お仕置きもしっかり受けろよ?」

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