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6日目・5
その後も、男は優しかった。
体をタオルで綺麗に―――やや乱雑だったが―――清め、男のワイシャツを貸してくれた。そして、布団を敷いて、男の横で眠らせてくれた。
目を覚ますと男は、咥え煙草をしたまま、何か資料を読んでいた。
「…何、読んでんの?」
「ん?…次の仕事の資料だ」
そういえば、男の仕事ってなんだったっけ?とおそ松は思ったが、どうでもいいことのような気がして、問いかけなかった。
夕方になったのか、部屋の中は少し寒かった。
シャツ一枚のおそ松はぶるっと体を震わせ、熱を求めて男にすり寄った。男は嫌がることもなく、ただそれを受け入れてくれた。
パラッと紙が捲られる音がする。
外のパチンコも工事の音も、今は気にならなかった。
部屋が静かにさえ思える。
まるで、2人だけの世界のように、おそ松には思えた。
そして、それはおそ松にとって、とても心地が良かった。
暫く、男が読んでいるのをじっと見ていた。最後の一枚を読み終わったところで、おそ松は口を開いた。
「…ねぇ、おじさん」
「ん?」
「なんで『俺』なの?」
資料を見ていた男の視線が、自分に向けられるのが分かった。黒く塗り潰された奥で、男の瞳はどんな色をしているのだろうとおそ松は思った。
「…お前は特別だからだよ」
男の指が、おそ松の髪を撫でる。
「……特別?」
「ああ。お前だけが『あの中』で、唯一、誰にも頼れないだろう?」
『あの中』が何なのか分からなかったが、おそ松はギクッと心臓を高鳴らせた。
「お前は可哀想だなぁ?皆、同じなのに、上がいないお前だけは、誰にも頼れなくて」
「俺はそういう『可哀想な奴』が大好きなんだ」
「だから、お前は、『特別』なんだよ、おそ松」
男の言葉が、次々と無遠慮に流れ込んでくる。
ガードすることも出来ず、それらはおそ松の奥の奥を濡らしていく。
男の顔が近づき、おそ松の額へキスをした。
それはまるで、幼子へするようなキスで、おそ松は思わず涙を零した。
この男の傍にいれば、自分はずっと『特別』でいられる。
ずっと自分だけを見てもらえる。
頑張らなくても、素直に頼って生きていけるのかもしれない。
男の手は、おそ松の頭を撫で続けた
心地が良かった。
気持ちがよくて、仕方なかった。
そして、力の抜けた体が微睡み始めた時――――。
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