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第1話
夏が過ぎ、少し肌寒くなってきた。
夜は布1枚じゃ寒く感じるが、上に羽織るものさえ今の俺には手に入らない。
「さむっ」両手を擦り合わせて熱を集める。
帰る家はない。
一週間ほど前に、住んでいたアパートが取り壊しになった。親には頼ることが出来ない。というより、親は行方知らず。大学へはなんとか奨学金制度で行くことが出来たが、住む場所も頼る人間も今の俺には見当たらない。
大学の友人に、居候を頼むことも出来たが、どうしても遠慮してしまう性格上前のアパートに置いていた自分の生活用品を置かせてもらう事で精一杯だった。それでも場所はとってしまうし、迷惑をかけてしまっているので、一刻も早く住む場所を見つけたい。しかし、勉強を怠れば、いずれ大学卒業後就職することも出来ず、ますますお金に困ってしまう。となれば、今必死に勉強するしかない。しかし、食事代など生活していく上でやはり必要になってくる分のお金を稼ぐためにバイトもしなければいけない。
住むアパートを見つける時間も、お金も今の俺にはどこにもないのだ。
とはいえ、そんな言い訳を並べたところで友人に迷惑をかけているので、一刻も早く住む場所を見つけなければいけない。そんなかんじで、どうしようもないけれど、どうにかしなければいけない状態に今俺は立たされている。
今日もとりあえずその友人に謝罪と感謝、そしてもう少しだけ荷物を置いてほしいというLINEをおくった。
友人から、全然ゆっくりでいいから。という返事が返ってきて申し訳ない気持ちと、有り難い気持ちになった。
とりあえず友人の言葉に甘えさせてもらい、朝から大学の授業へいき、昼ぐらいまで勉強してから、バイトへ向かった。バイトは、昼から夕方まで本屋で夕方から終電まで繁華街のBARで働いている。
荷物を置かせてもらっている友人である菊川誠也には一応どこで働いているかは言っている。何かあった時のためにだ。
菊川にバイト先を伝えたとき、繁華街のBARなんて危ないからやめとけと優しく気遣う言葉まで行ってくれたが、なにせ給料が随分といいのだ。新しく住む場所を借りるためにも、生活していくためにも辞めるわけにはいかなかった。
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