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第1話
ひどく頭痛がした。
頭の中はもやがかかっているようだった。
身体はあちこちが痛み寝返りをうつのも困難だ。中高生のころ、無鉄砲な喧嘩沙汰で大けがをしたことが何度かあったが、あの時と同じ感覚だ。何かの拍子に乱闘になって、袋叩きにあったのだろう。
しばらくして、目が覚めて、彼がいることに気づいた。
ベッドサイドに立ち、こちらに顔を向けている。
こんなにきれいな男がこの世に存在していることに驚いた。
目も、口も、鼻も、なにもかもが精密に整っている。
じっと自分を見下す彼には表情はなく、感情は全く見えない。まるで、死後の世界の天使のようだ。
声を出して、彼に呼びかけようとした。だが、喉はかさつき、音にならない。
触れたくても手は動かない。なにかしようとすると全身が痛む。
この美しい青年は誰なんだろうか。ずいぶん前に会ったことがあるような気もする。
ぼんやりとした記憶の中をたどるが、思い出せない。
ふと、彼が数回瞬きした。長い睫毛がかすかに濡れていることに気づいた。
泣いているのか?
だけど、どうして。
泣いているのなら、慰めてやりたいと思った。
この美しい青年が、誰かわからないけれど、自分が、一目で恋に落ちたのは確かだった。
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